lost9―沖矢side― ページ24
もちろん、女性に声をかけられるのなんて慣れすぎている。
大抵の場合、俺に興味を持った女性が声をかけてくることが多い。
でも、彼女の場合は違った。俺個人には大して興味がなくて、ただ「俺がこの場に馴染めるかどうか」にだけ気を遣っていた。
それは、研究室の他の人にも同様だったのですぐに分かった。
研究で息詰まった人や、その日特に機嫌が悪そうな人に限定して彼女は声をかけていた。
教授であろうが何年生だろうが、お構いなし。
その逆に、研究が順調そうな人には一切声をかけなかった。
もちろん、相手から声がかかれば応えてはいたが。
だから、研究室に居ながら最もやる気のない俺に、彼女が何度も声をかけてきたのは必然だった。
コーヒーを置くついでに机の上を見て、物理工学の式について聞いてきたりもする。過去何をやっていたのか、これからどんな研究をしたいのか、私に手伝えることはあるか――
「先輩の研究を手伝えば、きっと私の勉強になると思うんです。もちろん、ご迷惑でなければですけど」と、相手の負担にならないよう絶妙なラインを見極めて声をかけてくる。
一方、俺の容姿や存在そのものに興味があるわけではないので、研究室を一歩出れば全く俺の姿を認めることはなかった。
彼女には友達が多いから――
コーヒーのお礼に缶コーヒーを渡したら、にこりと笑って受け取ってくれた。
それが、とても嬉しくて。
彼女を喜ばせたくて、ついあれこれしてしまう。
俺は、それ以前から「あの子」を知っていた。
なぜなら彼女はーー
そこまで無意識に記憶を辿ってハッとした。
一体、俺は誰の話をしているんだ……
我にかえると、頭の奥がずきりと痛んだ。
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まつり(プロフ) - わたしさん» そんなに読んでもらってるなんて嬉しすぎます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございますー! (12月31日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
わたし(プロフ) - 本っ当に大好きで読むのも二三回目です。展開わかっていてもキュンキュンするし、まつりさんのかく沖矢昴が本当にかっこよくて理想すぎてだいすきです。なんでも出来てスマートに手を引いてくれる感じが堪らなくすきです、書いてくれてありがとうございます(;_;) (12月29日 4時) (レス) @page41 id: 2b3cd5dcd8 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気に読みました!!安室さん編があるの嬉しすぎます!! (5月12日 5時) (レス) @page41 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - チミさん» わあ、嬉しいコメントありがとうございます!こちらこそ、そんなに楽しんでいただけて幸せです。ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いします。 (2022年8月20日 21時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
チミ(プロフ) - この作品本当に本当に大好きで、毎回更新が本当に本当に楽しみで、なんと言ったらいいのか、とにかく大好きなんです!!出会えて最高でした〜〜!!素敵な作品ありがとうございます!!!!!!!! (2022年8月20日 20時) (レス) @page34 id: 5432b7d0cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月17日 9時