lost8―沖矢side― ページ23
縁もゆかりもない女性が唐突に入ってこれるような病室ではないことは承知している。
しかも、彼女は俺が赤井秀一であり、沖矢昴であることを認識していた。
それでも、俺にとっては全く見覚えのない人で――。
『なぜよりによって彼女のことを忘れるんだ、君は――』
そういって、上司であるジェイムズが、小さくため息をつくのが耳に入った。
涙を隠さない彼女の背中を追えなかったのは、かける言葉がなかったからだ。
『どうしてここに入院しているのかは覚えている?』
『事件ですよ。日本の警察と公安のもめごと』
『どうしてそれに、君が絡んでいるんだ?』
『……それは、さぁ……』
何故か思い出せず、俺はため息をつく。背中の火傷はまだひりつく程度には痛んだ。
まあどうせこれも、時間が経てば古傷になって忘れてしまう。
それだけのことだ。
『沖矢昴としての生活は?』
『一応大学院生って言う設定ですよ。とりあえずアリバイがあった方が良いかと思い、研究室に所属し――数日間だけ顔を出すつもりで――』
阿笠博士の馴染の教授を紹介してもらったので気は楽だった。
適当に過ごして、しばらくしたら姿を消すつもりだった。
どうせかりそめの姿だし、どこかに馴染むつもりもなかった。
孤独な気持ちを埋める方法なんてないと思っていたし、それで構わなかった。
「コーヒー、淹れすぎたんで良かったら飲んでもらえると助かります、先輩」
「あの子」が、声をかけてくれるまでは。
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まつり(プロフ) - わたしさん» そんなに読んでもらってるなんて嬉しすぎます!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございますー! (12月31日 21時) (レス) id: 91a8359b9e (このIDを非表示/違反報告)
わたし(プロフ) - 本っ当に大好きで読むのも二三回目です。展開わかっていてもキュンキュンするし、まつりさんのかく沖矢昴が本当にかっこよくて理想すぎてだいすきです。なんでも出来てスマートに手を引いてくれる感じが堪らなくすきです、書いてくれてありがとうございます(;_;) (12月29日 4時) (レス) @page41 id: 2b3cd5dcd8 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気に読みました!!安室さん編があるの嬉しすぎます!! (5月12日 5時) (レス) @page41 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - チミさん» わあ、嬉しいコメントありがとうございます!こちらこそ、そんなに楽しんでいただけて幸せです。ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いします。 (2022年8月20日 21時) (レス) id: 6a01f04095 (このIDを非表示/違反報告)
チミ(プロフ) - この作品本当に本当に大好きで、毎回更新が本当に本当に楽しみで、なんと言ったらいいのか、とにかく大好きなんです!!出会えて最高でした〜〜!!素敵な作品ありがとうございます!!!!!!!! (2022年8月20日 20時) (レス) @page34 id: 5432b7d0cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年8月17日 9時