ボディガードは不要です8【沖矢昴】【安室透】

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『Lady、落ち着いて、ほら。
　車いすってそんなに爆走するための道具じゃないよ？ ましてやここは病院だし。それに傷に触るから絶対安静って言われているでしょう？』

病室にも戻らず、ロビーの方に向かおうとする私をJが軽々と引き留めた。

『俺はこんな二択を突きつけるのは好みじゃないけど、何せあいつに頼まれているんでね。さて、抱き上げる？ それとも車いすで病室に帰る？』と問われたので、私はしぶしぶ車いすで病室に帰ると告げた。


気持ちを落ち着けると、身体の痛みが強くなったのがわかる。混乱のあまり、絶対安静って言われていたことすら、忘れていた。

ゆっくり車いすを押しながらJが問う。

『シュウが君のことを覚えていないかもとは聞いていたけど。その通りだった？』

『ええ、そうよ』

『医者によると事故の衝撃による記憶喪失で、いつ記憶が戻らないかわからないらしいよ。
　明日かもしれないし、一年後かも――。

　それにしても、他のことは大抵覚えているみたいなんだけど、よりによってどうして君のことなんだろうね。気の毒に』

Jはふわりと抱き上げて私をベッドに連れ戻してくれる。

『まあまあ、そんなに落ち込むことないよ。あいつを誰だと思ってるの』

『誰って……。でも、別に彼がわざと私のことを忘れたわけじゃないんだし。事故の衝撃だったらどうしようもないでしょ』

ただ、私がひどく不安で哀しくて、締め付けるように胸が痛いだけだ。
秀一さんを責めたいわけじゃない。




でも、ショックのあまり泣くことくらい許して欲しい。ダメかな。

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