get-well kiss7—沖矢side― ページ19
一通り必要と思われる説明を終えると、医師が改めてこちらに視線を向けるので俺はそっと(彼女)を腕の中から布団におき、目を覚ます様子がないのを確認してからベッドを抜け出した。
「どうかされました?」
「沖矢さん、どうして彼女がここに通っているかはご存知ですか?」
「ええ。今年の1月に被弾し、PTSDが続いていると聞いていますが」
「私もそう聞いていたのですが、実はもっと前に何か要因になることがあるとは思いませんか?」
「それはどういう――」
質問の意図が掴み切れず、僅かに首をかしげる。
「彼女、決して家族の話をしないんですよ。今日も会いたい人の名前を聞いたらあなたの名前しか挙げませんでした。健康保険証を見る限り、保護者はいるにもかかわらず、です。
僕はそれが引っかかっています。彼女、まだ、学生ですよね?」
「ええ、実家を離れ東京で」
「それでも、――たとえ実家を離れた社会人であっても、不安な時に親を求める人は決して少なくありません」
確かに、車でも片道3時間。新幹線であればより早く着く。何も、アメリカから飛行機でやって来いといっているわけではない。
親を呼び出すのに気を遣うほどの距離ではないだろう。
「それなのに、彼女はあなたの名前以外一切口にしませんでした。
本来は本人の了承なく家族以外にこんな話をするのが駄目だとは理解しているのですが――。今の状況では家族に彼女の状態を説明することも、本人に直接過去を問いただすことも、良策とは思えないんですよね……個人的に」
ふうと、医師はため息をつく。
「当然、本人にも家族のことは聞いてみたんですよね?」
「はい、『関係ないのでお話しません』の一点張りです。
長い独り言に付き合わせてしまいましたね。
実際のところ、今日は本当に助かりました。
沖矢さん、次回彼女が外来の際は、ぜひ、ご一緒にいらっしゃってください」
「ええ、本人がそう希望するならいつでも」
遠藤医師はわざわざ個人的な電話番号を伝えて出て行った。――まあ、安室君の紹介だもんな。いつまでもPTSDが治らないと知ったら怒鳴り込んでかねない。
ベッドに目をやれば、Aは微動だにせず眠り込んでいた。煙草も酒も、パソコン機器の類すらない夜なんていつぶりだろうか。
狭いベッドにはもう慣れた。改めて華奢な彼女を抱き寄せ、眠りに落ちた。
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まつり(プロフ) - かるぴんさん» かるぴんさん、はじめまして。長々と続いていてすみません。はい、続きも書きますねー。まだ、いつ終わるかもわかりませんが引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。 (2022年7月8日 20時) (レス) id: 40409137ce (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 引き込まれる文章であっという間にここまで読みました!とても面白いです!大変だとは思いますが、続きを心待ちにしています!お体に気をつけてください! (2022年7月8日 19時) (レス) @page16 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつり | 作成日時:2022年7月7日 9時