かわいい訪問者 ページ5
「秀一、まだお昼前だよね? 今日こそ出かけない?
私の体調なら全く問題なさそうだよ」
お皿を片付けた後、クローゼットからワンピースを見つけ身に着けた私は、新聞を読みふけっている秀一に声をかける。
昨日まで何度誘っても「Aの体調が心配」とはぐらかされていた。でも、さすがに太陽の光を浴びてなさすぎる気がする。
「外に行きたい」
今日こそ絶対に外に出たいと主張する。
新聞から目を上げ私を見た秀一は、ここ数日で一番難しそうな顔をした。
「俺は――」
いつも真っ直ぐな光を放つその瞳が、一瞬精彩を欠いた。
『本当のことを告げるのが最善策だとは限らないと思いませんか、Aさん』
いつか聞いた誰かの告白が、記憶の奥から蘇る。
あの人もこんな風に切なさと躊躇いを覗かせていた――
誰? この記憶の奥にある懐かしい人は、やっぱり秀一とは別人に思えてならない。
ピンポーン
呼び鈴の音が、二人の会話とつかの間蘇った私の記憶の旅を遮る。ぎくりと秀一の顔が強張った。同時に彼のスマホが鳴る。
「もしもし? 今家にいるよね? ジョディ先生に頼まれたから僕が来たよ。開けてくれる?」
受話器の向こうから元気そうな男の子の声が漏れ聞こえてきた。
「ああ、ボウヤか」
「うん、僕一人だから安心して」
インターホンには誰も映ってない。
「A、悪いけど迎えに行ってくれないか?」
秀一に頼まれて私は玄関の扉を開ける。
そこには、眼鏡をかけた少年――というには幼そうな男の子が一人で立っていた。
「お姉さん、こんにちは。僕、江戸川コナン」
男の子はとびっきり人懐っこい笑顔を浮かべ、そう挨拶するとまるで勝手知ったる我が家に入るかのように気軽な足取りで私のそばを通り抜け家の中へと駆けていった。
178人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時