自信過剰な彼氏5 ページ33
「記憶なんて必要ない。何度だってゼロから俺に惚れればいい」
ものすごく真顔でそういった。あまりの自信過剰なセリフに腰が抜けそうになるけれど、流されすぎてもよくないよね?
「――よく、自信過剰って言われません?」
「さぁ、記憶にないなぁ。実際、そうなっただろう?A」
楽しさを含む低くて魅力的な声は、私にしか聞こえない。
「ずるい」
私はここで秀一の名前を呼ぶこともできないのに。
「誉め言葉と受け取っておこう」
「全然、あのね、一ミリも誉めてないよ?シュ……」
腕の中で振り向いて彼を見上げて文句を言おうとしたはずなのに、私の唇は彼の唇にふさがれる。
「昴、ですよ? 他の男の名前なんて呼ばれたら、妬いてしまいます」
自分のことを指して「他の男」言うのはやめてもらっていいですか?
なんて、ここで言ってはダメなことくらい私は把握している。
人目がないからって油断禁物なんだよね、きっと。
死者(ゴースト)とのデートは難しい。
だから、彼にしか聞こえないほど小さな声で苦情を伝える。
「そうやって、スイッチ一つで声音も口調も雰囲気も、すべて変えてみせるのはやっぱりずるい――です」
私には無理だ。
相手の口調が変わっただけで、自分の口調までつられて変わってしまう。
二人は同じ人だって頭の中ではちゃんと、わかっているのに――。
「お嫌いですか? Aさん?」
むっとしている私に、不安そうに問いかけてくるから
「大好きですよ、昴さん」
って抱き着く以外に何一つ、抵抗する方法が思いつかなかった。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時