嵐の前の、 ページ3
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｢そろそろ行くね｣
｢…いつ帰ってくんの｣
｢たまに東京戻ってくるよ、取材も撮影もあるし｣
5月の終わり。
鼻先が触れ合うくらいの距離で、キャリーケースを手に玄関に立つAの腰を緩く抱きながら問い掛ける俺の声には少し寂しさが混ざって。
12月の終わりか、1月くらいには。
そんな曖昧な答えは当たり前で、撮影の進み具合によって"いつ"なんて明言出来るものでは無いのは分かってるけど、それでも。
じわりと沈む心を隠さずにじっと見詰めれば、小さく笑って瞳を伏せた彼女の柔らかな唇が宥めるようにそっと俺の唇に触れて、優しく溜息を封じた。
｢…もっかい｣
｢…ふふ、｣
甘えん坊だなあ、なんて言いたげに笑う彼女はキャリーケースから手を離して俺の首へ腕を回しながら軽く唇を開く。
誘われるままに舌を割り入れて、重なる吐息を刻み込むようにお互いに目を閉じた。
｢…、｣
｢…だめ、もう行かないと｣
｢…帰ってくるまで我慢してる｣
｢ふふ、うん、私も」
｢浮気すんなよ｣
｢潤くんもね｣
｢するわけねえじゃん｣
｢うん、知ってる｣
｢…怪我しねえように｣
｢ん、潤くんも｣
｢…もう一回キスさせて、｣
｢あはは、もう、｣
寂しさを堪えるように眉間に寄った皺を彼女が指先でほぐして、そのまま凭れて覆い被さりながら抱き締める俺の背中をとんとんと撫でる。
ぎゅうぎゅうと強く抱き締める俺の腕の中で、Aがいない間の話がぽつぽつと。
「お庭の桜、お手入れお願いね」
「ん」
「あ、タイのお土産ほしい」
「ああ、7月ね」
「24時間テレビ頑張って」
「うん」
「あとツアーとドラマと、」
「はは、時間ないんじゃねえの」
んん、なんて小さく唸りながら俺の首に顔を埋めるAの頭を優しく撫でる。
俺の力に負けじと強く抱き締めてくれる彼女の腕は離れがたそうに絡んだままで、今度は俺が彼女の背中を押す番。
「…すぐ帰ってくるから」
「いつまででも待ってるけど、早めにな」
「たまに電話するね」
「毎日しろよ」
「潤くんも忙しいでしょ、」
「俺はAのこと考えるのに忙しい」
「んん、すき、」
「ふ、気を付けて行っておいで」
「…うん、行ってきます」
「愛してるよ」
この時間が一生続けばいいのにと思うほど愛おしい空間に、甘いリップ音が響く。
1ヵ月後、
俺が起こした大失態のせいでこの恋最大の波乱が訪れることを、この時の俺はまだ知らない。
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竜胆(プロフ) - あ ゆ 。さん» あ ゆ 。さん、いつも読んでくださっているとの事、とても嬉しく思います。更新分もお読みくださりありがとうございます。リクエスト、勿論大歓迎です。コメント欄でもマシュマロでも、お好みのところから送って頂ければ！楽しみにお待ちしております。 (2023年1月10日 2時) (
レス) id: 4b185b5ed0 (このIDを非表示/違反報告)
あ ゆ 。(プロフ) - 竜胆さん、いつも楽しませていただいております。今日の投稿も、早速読ませていただきました〜。初めてコメントにお邪魔させていただいたのですが、リクエストさせていただくのは可能でしょうか…？ (2023年1月10日 0時) (レス) @page28 id: b4b41ea361 (このIDを非表示/違反報告)
エマ(プロフ) - リクエストお答え頂きありがとうございます！解釈が完全に一致してて嬉しくて面白かったです。これからも楽しみにしています！(返信不要です！) (2023年1月9日 23時) (レス) @page28 id: df9b0d8213 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - エマさん» エマさん、あけましておめでとうございます。拙くも、そして私独自の勝手な解釈ではありますが、楽しんで頂けますと幸いです。リクエスト有難うございました、こちらこそどうぞ本年も宜しくお願い致します。またお時間の許す際に覗きに来て頂けますと嬉しく思います。 (2023年1月9日 22時) (レス) @page28 id: 4b185b5ed0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 名前さん» 嬉しいコメントをありがとうございます、お返事が遅くなりました。私もその動画拝見しました、仲の良さが窺える話しぶりで素敵でしたね。少しお時間頂くかとは思いますがお待ち頂けますと幸いです。リクエストありがとうございます、また読みに来て頂けると嬉しいです。 (2023年1月9日 14時) (レス) id: 4b185b5ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：竜胆 | 作成日時：2022年7月8日 8時
