Columbine. (ページ15)

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「Aちゃん！」

私を呼ぶ声が、愛おしいと思うようになってしまった。

「お腹空いたやろ、何食べる？」

向けられる視線を、手放したくないと感じてしまうようになった。

「一回だけ、」

許可なく重ねられた唇を、何度も求めてしまう自分が居た。

もう、戻れない。
好きになってしまったと気付いた時には、景瑚のことなど考えられなくなっていた。

「辞める？」
「うん、今日まで。ごめんな突然。」
「いいけど…どうしたの？急に。」
「就職決まってさ、バイトあかんねん。」

休憩室で荷物をまとめる純喜。申し訳なさそうに手を合わせる彼に、私は寂しさを堪えて笑顔を向けた。

「たまに買い物来てよ。」
「これで金持ちの仲間入りやで、俺も。」
「まだ根に持ってたの？ねちっこいなー。」
「うるせ。ほな、またな！」

帰っていく純喜に手を振ったあと、私はすぐにスマホの通知をスライドして、そのまま耳へと当てる。

「おつかれ、終わり？」
「ううん、休憩。あと３時間で上がるよ。」
「ほな、迎えいくね。」

碧海のまっすぐな好意は、私の心を大きく揺すった。景瑚を待ちたいと言った自分は嘘じゃないのに、今すぐ景瑚との関係をはっきりさせてしまいたいと、思ってしまう毎日に、罪悪感はある。

それでも、仕方ない。好きになってしまった。

碧海との電話を切って、時間を確認したあと店内へと戻る。時間は19時、あと３時を乗り越えたら、碧海に会える。そう思ってレジに立ってすぐ、目の前にあった姿に私は目を見開いた。

「景瑚、」

３週間ぶりに会う、彼の姿。元々細かった体はまた少し痩せたようで、私に向ける視線に、愛はない。そう感じた。

「もう、答え出したから。」
「…うん、分かった。」
「家で待ってる。」
「うん、分かった。」

碧海に会える喜びは、景瑚の視線の重さで消えた。それでも落ち込むことはなく、ただ、彼の視線の意味が気になってしまう。

今まで、あんな目で見られたことは一度もない。
私に向けられる視線に、こんな気持ちを抱いたことはない。

怖い。

「A。」

店を出る前に、背中を向けたまま彼は私を呼んだ。

「…あとでね。」

本当は、違うことを言いたかったはずなのに。僅かに聞こえたその言葉は弱く、切なく、儚かった。

「待って景瑚。…一緒に帰るから、待って。」

奥にいる店長に早退を告げた私は、着替えて急いで店を出た。

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