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「河野さんのお陰で、もう一回目指そうって、決めました。」
「もっと頑張ります。…本当に、ありがとうございます。」
今回は、聞こうと思って聞こえた訳じゃない。本当にたまたま、髪を直していたら聞こえただけ。
こうなったら嫌だなと思うことが、起きていたらしい。
その事実を意図せず聞いてしまった僕の鼓動は気持ち悪い程度に早くなって、唾を何度も飲み込みながらそれに耐えた。
Aちゃんの光になったのは、純喜くんだった。
心のどこかで、きっとそうだろうと思っていたし、自分なりに覚悟もしていたはずなのに。確かめた途端に、悔しくて、腹立たしくて、そんな思いが顔に出ているのが鏡の姿を見て分かってまた、嫌になった。
「Aちゃん。」
洗面所を出て、リビングに戻る。名前を呼ぶと振り返った彼女は「髪直ったね」と笑った。
「今日さ、僕も一緒にレッスンしていい?」
純喜くんは、まだ彼女の"本当の姿"を見ていない。恐らく、蓮くんだって昔見たきり目にしていないだろう。つまり、今のところ、僕だけが知っているってこと。
それだけは、どうしても。
どうしても誰にも見せたくない。せめて、これだけは。僕だけのものにしておきたいという我儘を、居るかも分からない神様に許してほしい。
「翔也くんならいいよ。」
微笑んだ彼女の意図は分からないけど、まるで、僕だから良いよと受け取れる言葉。純喜くんの表情が歪んでいるだけで優越感に浸ってしまう僕は、性格が悪いのかもしれない。
「俺はあかんの?」
「そういう訳じゃないんですけど、」
別に悪いことなんてしていないのに、申し訳なさそうにするAちゃん。僕はわざと吹き出して笑って、純喜くんを見た。
「困らせてますよ。」
「あ、別に困ってる訳じゃ…」
「純喜くん頭良いんだからさ、言葉の意味くらい分かるんじゃないですか。」
グッと唇を噛んだ純喜くんが、僕を見る。こんなことでしか自分を優位に立たせられない自分が情けなくてたまらないけど、そんな事はもうどうでもよかった。
「行く時教えて、Aちゃん。」
「うん。また後で声かけるね。」
流石の彼女も気まずさに気付いたのか、そう言ってキッチンの方へ戻って行った。純喜くんはその姿が見えなくなった後、まだ他のメンバーが来ないのを確認して、僕の前に立つ。
「翔也、ちょっと調子乗りすぎてんちゃう。」
「純喜くんこそ、感じ悪いですよ。」
彼に嫌われても、僕はどうしても彼女を手に入れたい。
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ゆんこ(プロフ) - 最後あたりの翔也くんにとてもキュンキュンしました (2023年3月27日 21時) (レス) id: a4539225cc (このIDを非表示/違反報告)
マツ子(プロフ) - ペンバタ。@くれふぁん所属さん» 教えていただきありがとうございます!早急に対応させていただきました。 (2022年10月19日 11時) (レス) id: 67e955b2fa (このIDを非表示/違反報告)
ペンバタ。@くれふぁん所属(プロフ) - コメント失礼します。オlリlフlラついてますよ!違反になってしまうので、外してくださいね。これからも応援してます…! (2022年10月19日 7時) (レス) id: 7507a04f20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マツ子 | 作成日時:2022年10月18日 22時