0005 ruki ページ5
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出会いは半年前。高校に入学して入ったサッカー部、初めての試合。
「瑠姫！行け！」
初めてゴールを決めた瞬間、俺たちの勝ちは決まった。でも俺は、その時点でこれが最後の試合だった。
長年続けてきたサッカーを諦めるには早すぎる年齢。それでも、人一倍の努力をモットーにしてきた俺にとっては、長すぎる時間を練習に費やした。痛めた足も、これ以上は無理かな、なんて。自分で決めた。
試合が終わって、誰にも見られないように泣いた。そんな時、彼女には見つかってしまった。
俺たちのチームのタオルを持った、セーラー服の女の子。
「かっこよかったです。」
年下であろう彼女も、何を言おうか悩んだ末の言葉だったと思う。手に持ったハンカチを俺に優しく渡して、そのまま走り去って行った。
だからあの日。純喜と並んで歩くその姿を見て、時間が止まったような。そんな感じ。
「Aちゃん。」
廊下ですれ違った時、思わず名前を呼んだ。あの一瞬の出来事を彼女が覚えているはずもない、そう思ったけど、せめてお礼だけでも言えたら、なんて。
「お久しぶりです」
少し微笑んだ彼女が、しっかりと俺を見て言う。
覚えていてくれた。それだけでも嬉しかったのに、彼女は言葉を続ける。
「あの時のシュート、かっこよくてまだ覚えてます！瑠姫先輩。」
その時の俺はあまりの嬉しさに舞い上がって、自分の制服に名札が付いていることなんてすっかり忘れていた。名前を知ってくれていたこと、かっこいいと言ってくれたこと、その全てに、言葉が出なくなった。
そのあとはすれ違う度に挨拶をする、その程度。純喜に言えばなんとか仲を取り持ってくれそうだけど、小っ恥ずかしいような申し訳ないような、そんな感情でひっそりと思いを寄せた。
ピコン
LINEの音に起き上がり、ハンカチを置いてスマホを取る。
"明日、頑張ってくださいね！"
はるかちゃんからのLINEにスタンプを返して、布団に潜り目を閉じる。
"Aのこと、絶対に幸せにしてください。"
"Aが誰にも、見向きもしないくらい。お願いします。"
はるかちゃんが切羽詰まったようなお願いをするもんだから、余計なことを考えてしまいそうになる。
Aちゃんには、好きな人が居る？それとも、はるかちゃんが好きな人が、Aちゃんを好き？
考えれば考えるほど頭がぐるぐるとして、その度にAちゃんの顔を思い出してはにやけてしまう口をグッと噛んだ。
to be continued....
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作者名：マツ子 | 作成日時：2022年10月1日 1時
