0023 you ページ23
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「景瑚、ってさ」
歩きながら突然聞こえた名前に、数日前の出来事が脳裏に過ぎって心臓が口から飛び出そうになる。
「まじでゲーム弱いよな。」
瑠姫先輩は思い出したように笑いながら言った。私は安心して、思わず吹き出してしまう。
「瑠姫先輩も人のこと言えないです。」
「Aちゃんが無駄に上手いんだよ。」
「はいはい、嫉妬しない。」
笑いながらそんな話をしていると、先輩はふう、と息を吐いて言葉を続けた。
「景瑚って、いつもおちゃらけてるよなー」
「昔からですよ。逆に静かだと心配になっちゃう。」
「あんまり弱いところ見たことないかも。」
「ああ見えて、意外と泣き虫なんですけどね。」
「観察力あるし、人の変化とかすぐ気付くよな。」
「優しいんですよ。自分より他人が大事って言うか」
「そりゃ好きになっちゃうよな〜」
「好きになっちゃいます…って、」
不意に自分の口から出た言葉にハッとして、慌てて口を押さえる。瑠姫先輩は、してやったりな顔でニヤニヤと笑いながら私を見た。
「チョロすぎる」
声を出して笑う瑠姫先輩に恥ずかしくなって、先に進む先輩の横へ走って並んだ私は、観念して答える。
「でも…いいんですかね、好きって思っても。」
純喜への気持ちを断ち切った途端、景瑚のことが好きなんて。しかも景瑚の気持ちを知ってからこの気持ちに気付いた訳で、何だか自分は都合が良すぎる気がしてしまう。
「Aちゃんはさ、純喜に気持ちを伝えられなくて、辛い思いしたんじゃない？」
先輩が、私の気持ちを誰に聞いたのかは分からない。けど今はそんな事どうでもよくて、その問いかけに静かに頷いた。
「俺は、好きって思ったら好きって伝える以外の方法はないと思うよ。実際、Aちゃんにも伝えたしね？」
瑠姫先輩の気持ちは、本当にありがたかった。でもどうしても恋愛対象には思えなくて、お兄ちゃんのような感覚で甘えてしまっていた。
「ごめんなさい。」
「ん？」
「私、瑠姫先輩の気持ちに、応えられなくて…」
先輩は首を横に振って、優しい笑顔で私の頭をポンポンと優しく撫でた。
「いいよ。…ただし、条件があるんだけど。」
「条件？」
うん、と言った先輩が、私の前に立って振り返る。
「もう、後悔しないように進んでよ。」
「手遅れになって、傷付かないように、強くなってほしい。」
その強い言葉と眼差しに、私は自分の心に嘘はつかないと決めた。
to be continued ...
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作者名：マツ子 | 作成日時：2022年10月1日 1時
