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虎と探偵社7 ページ8

敦が太宰に連れてこられたのは薄暗い闇に包まれた倉庫街だった。
あたりはしんと静まり返っている。

『本当にここに現れるんですか?』
「本当だよ」
沈黙に耐えかねたように問う敦に太宰は本を読みながら答える。
本の表紙には“完全自 殺読本”との文字。

「その本何度読み返したの?あきないの?」
Aは太宰に聞いた。
「え〜?飽きないけど…Aも読むかい?面白いよ」
「つまんなそうだからいい」
Aは特に興味を持つ様子もなくすぐに本から目を外した。

二人の緊張感のなさに、敦は不安を覚える。それを察したかのように太宰は言った。
「心配いらない。
虎が現れても私たちの敵ではないよ。私はこう見えても『武装探偵社』の一隅だ。
それにこのAもいる。Aの腰、刀が差してあるだろう?」

『はは、凄いですね。自信のある人は。
僕なんて孤児院でもずっと駄目な奴と言われてて…
そのうえ今日の寝床も明日の食い扶持もしれない身で…』
敦の頭に孤児院の記憶が蘇る。

『こんな奴がどこで野垂れ死んだって…いやいっそ食われて死んだ方が」
その声は震え、今にも消え入りそうだった。

そんな敦を太宰は何も言わずに見ていた。空にはいつのまにか大きな満月がのぼっている。

「却説、そろそろかな」
太宰の声を聞き、敦は上を向く。

ガタン!

大きな物音に、敦の体が震える。
音が聞こえた方を振り向くも、そこには木箱があるのみだ。
『いま、そこで物音が…!』
敦の顔は恐怖に染まっている。

「そうだね。」
『きっと奴ですよ!太宰さん!』
焦る敦とは対照的に、太宰の顔は冷静だ。
「風邪で何か落ちたんだろう。」

『ひ、人喰い虎だ。僕を食いに来たんだ…』
「座り給えよ、敦くん。虎はあんな処からは来ない。」
『ど、どうしてわかるんです!?』

パタン

太宰が本を閉じた。
「そもそも変なんだよ、敦くん。
経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ。いや、そもそも経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分ぐらい減らしてよその施設に移すのが筋だ。」
『太宰さん…何を言って』
木箱に座る太宰を見上げる敦。太宰の背後には大きな窓がある。
敦の目が、大きな月を映してギラリと輝く。瞳孔が猫のように窄まった。

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メンヘラ君。(プロフ) - 僕も、大好きです! (5月8日 18時) (レス) id: 49ed8a4d79 (このIDを非表示/違反報告)
無農薬いちご(プロフ) - うわぁんありがとうございます大好きです!!!! (5月8日 1時) (レス) id: d6e91a6bd6 (このIDを非表示/違反報告)
メンヘラ君。(プロフ) - まちにまった更新だぁぁ!先が気になります!無農薬いちご様のペースで、がんばってください! (2023年5月6日 23時) (レス) @page10 id: 49ed8a4d79 (このIDを非表示/違反報告)
無農薬いちご(プロフ) - 遅れてすみません… (2023年5月6日 18時) (レス) @page10 id: 62ce5d1327 (このIDを非表示/違反報告)
無農薬いちご(プロフ) - すみませんもうすぐしたら更新します… (2023年4月12日 18時) (レス) id: d6e91a6bd6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:無農薬いちご | 作成日時:2023年3月22日 11時

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