第二十八話 ページ28
名取side
彼女は端的にだが、その過去を明かしてくれた。
七歳頃に親に捨てられたということ。そして山に捨てられたが、赫良という猫ちゃんとよく似た妖に育てられたということ。
住み処を妖達がいたずらに燃やして帰る場所がないところを夏目や夫妻が助けたということ。
終始彼女は笑顔だった。
「あんまりよく覚えてないんです。赫良との思い出とか、一杯あったはずなんですけどね」
そう言って、目を伏せた
名「親は…」
「親も覚えてません。顔とか、父さんがいたのかも。思い出すのはいっつもお母さんの罵声ばっかりですし」
彼女の隠していた背景は、あまりにも悲惨だった。とても、想像がつかないけど、想像でしか理解できないけど。悲しみがわかる気がした。
でもなんでそんな風に笑っていられるのか、分からない
名「何で…笑ってられるんだい?…」
それを指摘されて、一瞬驚いたような顔をする。
「悲しそうにしてたら良かったですか?どういう顔して話せば良いのか、分からない」
そう言って、その話をし始めて、初めて表情を暗くした
名「恨んだり、してない?…」
「してませんよ。だって、私の一部ですし。それに、恨んだところで何にもならないって知ってる。憎しみは、何も産まない
それに、恨もうにも復讐しようにも何処で何してるかとか生きてるかすら分からないから」
名「……」
Aちゃんは、おれが思っているよりも、ずっと強く、大人だった。
彼女が泣くなら、慰めて。抱き締めて。その穴を埋めてやろうと思った。けど、“そんなことはしなくてもいい”と彼女に言われた気がした。
その傷と一緒に生きていく。と、一部として、受け入れている。
もっと、弱い生き物だと思っていた
おれは、何も知らなかった。
それで良いと思ってたから、っていうのもあるけど
「長くなってすみませんでした」
名「ううん。……知れて良かった…」
笑うと、Aちゃんも笑顔を返してくれる。いつのまにか、あの張り付けたような笑顔は消えていた。
一つ。彼女の事を知った。
過去を。
名「……他にも話、聞かせてくれないかい?」
「へ?」
少し驚いたような顔をしたけどすぐに嬉しそうに笑った
「はい……!」
少し恥ずかしそうにしながらも、学校での友達のことや、藤原家であったこととかを面白おかしく話してくれる。
だからもう一つ知ることができた。
彼女は以外と話し上手で聞きやすい
こんな風に、一つ一つ、知っていければ、いい……………。
きっと、知らない方が楽なのに。
でも、知りたいと思う気持ちは、止まらない____
60人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:穴 | 作成日時:2020年8月25日 19時