ドリプリ (ページ1)

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金陽ページ1

涙で目の前がぼやけて見えなくなるなんて、もう何年ぶりのことだろうか。

視界がぼやける前、確かに彼は右腕を上げていた。
どうだ、やったぞ。俺は世界一になったぞ、と、拳で表していると、そう感じた。

ワールドカップ決勝。
そこには、ここ10年近く会っていない幼馴染の姿があった。

髪の毛の長さも、色も、テニスを楽しそうにしているところも、彼が旅立った以前となにも変わっていない。
変わっているとしたら、身長だろうか。
別れた時点でも陽が見上げるほどあった彼の身長は、目測だがまた更に伸びている。

そんな彼を目に焼き付けるよう、陽は、必死に涙を拭って、彼の方を見た。

彼は、日本のカメラだろうか、そのレンズにサインをしているところだった。

そして、書き終わったのか、陽の方に振り向く。

「……え」

目が合った。一瞬。ほんのコンマ数秒。

いやいや、まさかたまたまだろうと思いながらも、陽は胸の高鳴りを抑えられなかった。

__その一瞬で、彼が私に微笑んだように見えたのだ。

彼はベンチに置いてあった荷物を持ち、出口の方に歩き始めた。退場だ。長かったこの試合も、すべて終わった。

「(……帰る準備、するか)」

陽は鞄に持ち物をまとめ、盛り上がっているLINEのグループに反応した。

グループには、陽が中学一年生のときに参加したU-17強化合宿の女子メンバーが参加している。
皆それぞれテレビを通してこの試合を見ているらしく、驚きやら興奮やらのメッセージで通知が止まないのであった。

また新しく、メッセージが追加された。

__陽ちゃん、良かったね。

ホヅミが送ったそのメッセージが陽に届いたと同時に、陽の近くで大歓声が湧いた。

それは次第に周りに伝染していき、ついには会場全体が湧き上がるような大歓声になった。ごおおお、と、体にぐわんぐわん響いている。

歓声の原因が何なのかは、すぐに分かった。

それはみんな驚くはずだ。それこそ、これで驚かない人がいたら、見てみたいほどに。

後ろを振り向く、ゆっくりと。すると、そこには、見慣れた赤髪。

陽は、手で口を押さえたまま、硬直した。

なんでここにおるん。帰ったんとちゃうの。なんで、なんで今ここに、なんで。
ほんま、ほんまに。