境を跨ぐ 【名探偵コナン】

37 長野 ページ39

side貴方


上々な仕上がりだ、と思った。


愛おしそうに子を見やる寡黙な父と、屈託の無い、だが何処か憂いを帯びた、無邪気な子供。


これだけ見れば、何処か人の目を惹きつける絵に描いたような親子としか思わない、してやったりと思いながら初めて訪れた長野に胸を躍らせて駅からの風景を見ると、それはとても新鮮なものだった。


それもその筈、私は人生二回を跨いでいても、長野には訪れたことは無かったのだから。


五歳児そのまま、の様な笑みの私とは裏腹に彼は諦めた様な、貫禄のある笑みで私を見ていた、どうせ如何返していいか分からないとでも思って居るのだろう。


仕方ない、助け船をだそうか。


「お父さんのおうちってどんなところなの？


おじいちゃんとおばあちゃん、居るの？」


「……いいや、もういないんだよ、すまん」


……これは、私の家系を指しているのだろうか、それとも彼の父母を指しているのだろうか。


兎にも角にも、私はいたたまれない感情になると同時にやらかした様な表情になったのが分かったので、咄嗟に俯いて必死に声を絞り出す。


「……ごめんなさい」


「いや、いいよ。


これからお父さんと二人で暮らすからな、俺が仕事に行っている間はいい子にして待って居るんだぞ」


バレなかったようだ。


「うん！


私、お父さんのおてちゅだい、いっぱいする！」


「んっ」


……噛んだァァァァッ！


恥ずかしさの余りに私は赤面すると、彼は真顔になり乍ら鼻血を垂らし、すまんと言いながら私から顔を背けた。


……警部、アンタ何してんだ。


私も大概だがお前も相当だぞ、と突っ込みたくなったが、ぐっと堪えた。


潜入捜査には息を揃えることが重要だ、私達は早々にそれを痛感した様だ。


因みに言うと、私達はこれだけの時間を要しても駅の敷地から未だ出ていない、道程は、如何やら可成長かったらしい。

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