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“いつか”はそう遠からず訪れた。
任務帰りに立ち寄った俺を見て、目を丸くしたAを見ると、殺伐と張り詰めていた心が少しばかり豊かになったような気がした。
『ご無事で何よりです』
「ンな簡単にくたばらねェよ」
深く下げたAの頭を撫でると、むず痒くも温かな感情が体の奥を焦がしていく。
俗に言う幸せというのはこういう言い表せない感情で出来ているのかもしれない。
一緒にいられる時間は、長くは無い。明け方から日没前までの逢瀬は、簡単な会話のみで終わることもあった。それでも、気がつけば足はそこに向かっていたし、Aはいつでも俺を迎えて、ひと時の温かな時間で包んでくれていた。当たり前に在るそれが、何の有り難みもなく日常の一部に同化していたことに気づいた時には、もう遅かった。
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『もうすぐ、柱稽古が始まるとか』
「相変わらず、情報が早ェなァ…」
『先日此処を利用した隊士の方が言っていましたよ』
「そうかィ」
任務も無い日にAの元へ訪れたのは、初めてのことだった。
このところ任務続きだったこともあり、Aの顔を見たのも、夏ぶりだ。あっという間に辺りは雪化粧をするような季節へと様変わりしていた。
それが、ここに来てぱたりと任務が激減した。
鬼の出現情報は少ない。いよいよ、その日が近づいているということなのか…
『やっと寂しくなって来て下さいましたか?』
悪戯っぽく笑うAが、愛おしくて、俺は俯いた。
「まあ、なァ…」
『あら、明日は雷雨ですかね』
「………」
『あの、冗談ですよ…?』
実弥さーん、と目の前を白く華奢な手のひらが翻る。
あぁ、この手を掴んで、引き寄せて、抱き締めていられたら──何があっても傍で守り続けると誓えたら。こんなに情けない顔を見せずに済んだのかもしれない。
「寂しいっつーか、会いてェなって…」
『…ねぇ、本当に明日…』
「…るせェ。ほら、日が暮れねェうちに出掛けんぞ」
立ち上がり、手を差し出すと、似た体温の指が絡む。慣れた感触に、胸が熱くなった。
『今日は非番なんですね』
「あァ、ここんとこずっと任務続きだったからなァ」
『休まなくても、大丈夫ですか?』
「俺のことは心配すんなァ」
二人で並んで歩く景色は、いつの日も鮮やかだ。
いつものように、行きつけの茶屋へ行って、何を買うでもなく店を見て回って、俺はその全てを胸の奥に刻み込んでいた。
すると、Aは突然足を止めた。
『実弥さん、今日会いに来て下さったのは、何か理由があるのではないですか?』
鼓動が、弾けるように体内に響いた。
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ユリア(プロフ) - ねぇえええええまって私も聞いてない久々ツク開いたらなんなのこれ何で呼んでくれな(死) (2022年11月1日 22時) (レス) id: 5f1067fe3a (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - みおさん» ありがとうございます💖もう少し更新続きますので楽しんで頂ければ嬉しいです💖感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひの新作通知もずっと待ってる!待ちすぎて舞ってる💃唯梨さんの実弥読めて私も嬉しかったよ!爆速過ぎて吹いたけどね!笑 いつも感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - みんなお祝いコメントありがとうっっっ🥰❤️もう書かねェ…!って思ってたけどみんなのおかげで創作意欲が湧きました!今後ともよろおねでっすー💁🏻♀️❤️❤️ (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - 奏海さん» かなみちゃんありがとうね🥰❤️色々落ち着いて戻ってきちゃった🧡🧡🧡🧡 (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:京華/唯梨/羽糸/ひよ/あさひ x他4人 | 作者ホームページ:ありません
作成日時:2022年9月21日 11時