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私の苛立ちを感じ取ったのか、そうして何なら、鈍感を決めこもうとでもしているのか。
彼は軽く、肩を竦めて。
「もっと落ち込んでっかも、って考えてたからさ」
他意はないと言うかのように、両手を上げる。「降参」の意味かと思いあたり、苛立ちを隠しきれなかった自分を思わず責めた。
「冷てえとか、んな風にゃ思ってねーよ。まだ18のわりに、オトナだとは思うけど」
『オトナ、かあ…………なりたいとは思うけどね、早く』
大人になれたところで、この想いが報われるわけでは、ないのだろうけれど。
そんな自嘲も、コーヒーと共に飲み込んだ。もちろんそれはブラックで、ピアス同様、彼の真似だった。高校2年の頃からのこと。
変わらない眼差しで私を見つめながら、ふ、と笑いのような息を吐いた彼が、目の前に小さな箱を差し出す。
視線で問うた私に、「開けてみ?」とだけ一言。
『え……?』
贈り物の類いであることは、見た目でわかった。
包装紙を注意深く取り払い、滑らかな手触りのケースを開ければ。
「これも入学祝い。気に入った?」
私の誕生石は、彼の瞳と同じ緋色。
だから私はそれが。
『……ありがとう。すごい好き、この石』
「そりゃ何より」
『大事にするね、ずっと。いつも着ける』
おう、と頷いた彼は、ほんの少し逡巡するような色を見せた。そうして苦笑にもとれる微笑みに変えて。
「………A知ってる? 従兄妹ってさ、法的に結婚も出来んだよ」
その口から発せられたワードは、私の肩を小さく揺らす。
「いきなり変わんのは、難しいかもしれねえ。少しずつでも………お前の兄ちゃん、辞めていいか?」
『………どういう、意味』
「まんまだよ。お前の男になりてえっつってんの」
お前の、男。
その字面を頭に浮かべて確認すれば、何とも表現し難い感情達が溢れ出す。驚きと喜びと困惑、それから幸福感と、やっぱり苛立ちも。
「急がなくていいから。ちょっとずつ、オレを意識してよ」
頼むから、ってそんなこと今更、言われなくたって。
その熱っぽい瞳で見つめられるだけで。
『………帰ったらこのピアス………天元が、着けてくれる?』
ずっと前から密かに練習していた呼び方を今、披露した私に。
綺麗な緋色を軽く見開いた彼は眉を下げて、「喜んで」と笑ったのだった。
完
ひよ
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ユリア(プロフ) - ねぇえええええまって私も聞いてない久々ツク開いたらなんなのこれ何で呼んでくれな(死) (2022年11月1日 22時) (レス) id: 5f1067fe3a (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - みおさん» ありがとうございます💖もう少し更新続きますので楽しんで頂ければ嬉しいです💖感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひの新作通知もずっと待ってる!待ちすぎて舞ってる💃唯梨さんの実弥読めて私も嬉しかったよ!爆速過ぎて吹いたけどね!笑 いつも感謝ァ! (2022年9月25日 20時) (レス) id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - みんなお祝いコメントありがとうっっっ🥰❤️もう書かねェ…!って思ってたけどみんなのおかげで創作意欲が湧きました!今後ともよろおねでっすー💁🏻♀️❤️❤️ (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - 奏海さん» かなみちゃんありがとうね🥰❤️色々落ち着いて戻ってきちゃった🧡🧡🧡🧡 (2022年9月25日 18時) (レス) id: e4ce53ad81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:京華/唯梨/羽糸/ひよ/あさひ x他4人 | 作者ホームページ:ありません
作成日時:2022年9月21日 11時