また、いつか。【不死川実弥】短編集【鬼滅の刃】

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『………いい加減、目を覚まして下さいな。ね、実弥さん』



目の前の寝台、あどけなさすら感じる無防備な寝顔に向かって、そう話しかけた。

今日は熱も高くないようだ。うなされていないだけで心底、ほっとする。



『もう、梅が咲きかけてしまいましたよ…………その内、桜の季節が来ます』



返事はない。

その耳に音が届いているのかすら、私にはわからないけれど。



『起きて下さらないと、私の話を聞いて頂けないでしょう？ …………私にだって、言い分というものはあるのですよ』



あの日。

ほぼ一方的に投げつけられた、別れの言葉への。



まだ包帯が巻かれた痛々しい左頬、かろうじてそれが無いところに、指先で触れる。

微かな温かさは、彼の生の証。





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「鬼殺隊、ついに鬼を殲滅」



その知らせが届いたのは、年が明ける直前のことだった。特殊な訓練を受けているらしい鴉＿＿鬼殺隊内では鎹鴉と呼ばれる＿＿が、そう一言だけ告げ、また慌ただしく飛び去った。


突如もたらされた知らせに、脳裏を過ぎったのは当然、未だ愛おしいままの彼。


だから私はそれ以上の情報を求め、面識のある、他の藤の家紋の家へと出向き、人々に聞いて回った。



そうして得られた、「蝶屋敷」という場所の話。

そこならばあるいは、彼の状況など何か教えて貰えるかもしれないと。



…………思い至った時にはもう、駆け出していたのだった。






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病室に、ノックの音が響く。



「失礼します。Aさん、風柱様の包帯を替えますので、手伝いをお願いします」



応じてすぐ入ってきたのは、この蝶屋敷で鬼殺隊士を看護している、神崎アオイさんだった。


彼の安否を確認したいが為、お屋敷へと飛び込んだ私を受け入れてくれた、優しく、頼りにもなるしっかりした少女だ。



…………私は結局そのまま、アオイさん達のお手伝いをするという名目の元、蝶屋敷に置いて貰っている。



「傷の状態も悪くありませんし、ここ数日は発熱も見られません。そろそろ意識も戻ると思うのですが」



二人掛かりで何とか処置を済ませた後、アオイさんは淡々と事実を述べる。それはむしろ、私には心地良かった。



『なら良かったです。恨み節とはいえ、いつまでも独り言では、報われませんから』



私の本音に、アオイさんは大きな目を見張り。



…………そうしてすぐ、破顔してみせた。


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