ブルーライトⅤ (ページ7)

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「タクシー、呼ぶわ」

背後でゆうたくんが立ち上がる気配がした。何も答えないあたしにそう言った彼へ相槌だけ返す。１０分ほどで公園に着いたタクシーに二人で乗り込み、行きとは全く違う雰囲気でマンションに戻った。

「…………」

あたし達は互いに何も話さない。窓の外で淡々と通り過ぎていく夜の景色を眺めながら、ボールの表面にあるザラザラを指でなぞる。早く家につかないかな、同じことを思っていたと思う。
マンションの下に着いて、車から降りても言葉を交わすことはない。二人して何かを考え込みながら部屋まで向かい、玄関にてゆうたくんの荷物を手渡したところで彼が「ごめん」と顔をあげた。

「俺のやり方が間違ってたよね」

あたしの手からカバンを受け取った彼は一瞬俯いて、すぐに視線をこちらに戻し口を開く。

「Aはやまとのことが気になってるかもしれないけど、俺も候補に入れてみてよ」

口ごもるあたしには言いたいことがあった。しかしどう伝えれば良いのかわからなかった。

「……でも」

「待って、返事は今じゃなくていい」

何かを察したのか、すかさず頭を左右に振ったゆうたくん。

「Aが知らないだけで、俺って良いとこいっぱいあるんだよ」

意味深なことを言って、カバンを肩にかけた彼は「チャンスちょうだいよ」と笑顔を見せて右手を振りあげた。

「じゃあ帰るわ。飯美味かった」

「あ…うん、家具ありがとう」

「おう、またね」

そう言って背中を見せた彼に、また今度があるのかとホッとしたと同時にあたしは、次にコムドットと会う時にどんな顔をすれば良いのだと早くも頭を悩ませる。
しかし今日は疲れた。何かを考え出す前に寝てしまおうと部屋に戻る。玄関に鍵をかけてリビングに入ると、まだ彼等の気配があるかのごとく香水の匂いが部屋に残っていた。いつもならその香りにウキウキするが今夜は違う。溜め息混じりで空気を入れ替えるためにベランダの扉を開ければ、都内の夜景が視界の中に飛び込む。無意識に足を止めたあたしはぼんやりとした頭でその光を眺めた。

「…………」

初めてこの景色を見た時、すごく綺麗だと思ってこのマンションに決めたのに今日はなぜか、ただ無機質に輝き続ける無数のライトが逆にあたしを切なくさせる。

「なんで一人の人を選ばないとダメなんだろう…」

あたしの答えのない独り言は、時として心を忙しなくさせる東京の夜景に飲み込まれて消えていく。