#205 ページ5
何かを誤魔化すように、何かを掻き消すように、ゴールに向けてシュートを決めたが、前にコラボでプレーした時よりスッキリしない。
「やまとくん、怒ってた？」
虫が集まる街灯を眺めながらあたしは無意識にゆうたくんに尋ねる。モヤモヤの原因は明確で、それを心の奥に押し込めるほど気持ちは穏やかではない。さすがに言い過ぎたと思っていたし、直接謝ることすら出来なくて心残りだった。
あたしの言葉の後に放ったゆうたくんのシュートは外れて、跳ね返ったバスケットボールは芝生の方に転がっていく。しかしそれを拾いに行こうとしないゆうたくん。不思議に思いつつも代わりに取りにいくかと足を踏み出した瞬間、パッと手首を取られた。
「そんなこと、まだ気にしてたの」
あたしを呼び止めた街灯の下に立つゆうたくんの顔には、うっすらと影ができている。転がっていくボールを目で追いながらも返事をかえす。
「だって喧嘩みたいになったしさぁ」
「あれぐらいでやまとは怒んないよ」
ゆうたくんのあたしを引き留める手の力は強くて、コート外に出たボールを取りに行こうにも足を踏み出せない。
「怒るかどうかはやまとくんが決めることだから」
「ならAがいくら考えても意味ないでしょ」
「そうだけど…」
「今ここにいない奴のことが、そんなに気になるのかよ」
彼の声が鼓膜を振るわせる。だけどあたしはそれを聞いて頭を左右に振った。
「いないから気になるんだよ」
そう返せば一瞬、瞬きの合間に悔しそうな表情をした彼はそれを隠すように俯いて地面に視線を落とす。
「…………」
「………」
「俺……」
「え？」
まさか泣き出したのかと不安になって、ボールから目を逸らし彼の顔を覗き込めば、ゆらりとこちらを見上げたゆうたくん。
「俺じゃダメかよ」
暗闇の中で不安定に揺れる彼の黒い瞳があたしを捉える。生唾を飲んだあたしが咄嗟に握られた手を無理やり引き剥がそうとすれば、それをさせまいとゆうたくんが体を起こした。
「やまとやめて俺にすれば？」
言葉と同時に思い切り掴んでいた腕を引かれる。あっと思った時には軽く瞼を閉じたゆうたくんの柔い唇が、目を丸くしたあたしの唇とぶつかるみたく重なった。
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作者名：メイソン | 作成日時：2023年5月31日 19時
