#203 ページ3
気まずさを背中に乗せて家に戻ると、ゆうたくんは呑気にリビングでテレビゲームをしていた。そして帰ってきたあたしを見るなり「散歩してスッキリした？」と普段通りの顔でこちらを振り向く。
「泣き顔とかじゃなくてよかった」
笑いながら言って、コントローラーを床に置いた。
「やまと達が仕事あるって事務所戻ったから、一人で暇だったしゲームしてたんだよ」
「…帰ったのごうたくんから聞いた」
「やまとが改めて話したいし、また連絡するって」
「うん……」
頷いたは良いものの、どんな連絡が来ても素直な返事はできそうになかった。曖昧な返事をしたあたしの後ろからごうたくんが顔を出す。
「僕も事務所戻りますね」
彼は忙しいやまとくんの代わりに、頼まれてあたしを追いかけてきたのだろう。本当はやまとくん達が乗る車の運転手として来ていたが、二人はタクシーを使ったので事務所の車を明日の撮影の為に返さないといけないらしい。
「ゆうたさんはタクシーで帰りますか？」
「そうするわ」
「それじゃあまた明日っすね。お疲れ様です！」
ご馳走様でしたとあたしに頭を下げた彼は、スマホの時計を見ながら部屋を出て行った。自分の家なのに、自分の家じゃないみたいな空気感に取り残されたあたしは、テレビゲームのロード画面を眺めるゆうたくんに視線を映す。目が合うなり、彼は少しばかり照れくさそうな様子ではにかんだ。
「Aの家に俺だけ残るの変かな。俺も帰ったほうがいい？」
「ううん、いた方がいい」
「一緒にゲームする？」
「いいよ」
夜風に当たったといえど、まだ頭の中がグルグルしているあたしは言われるがままに彼の隣に座る。
「久しぶりにバスケやったんでしょ」
テレビ画面を目で追うゆうたくんの質問にあたしは頷いた。
「またバスケやりたくなった？」
「うん。撮影終わりに速攻ボール買っちゃった」
「まじ？家にあんの？」
「家具のダンボールと一緒に混じってると思う」
手を止めたあたしは話しながら立ち上がり、部屋の端に置いてあった段ボール箱からバスケットボールを取り出した。ざらざらとした手触りのそれをゆうたくんに手渡す。
「新品の革の匂いがする」
そう呟いて、彼はあたしを見上げた。
「せっかくボール買ったしバスケしに行く？」
「え、まぁ…時間があれば動画とかでするんじゃないかな」
「いや、そうじゃなくて今から」
「い、今から…？」
人差し指でクルクルとボールを回したゆうたくんは「行こうよ」と今一度、次は言葉で押すように言った。
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作者名：メイソン | 作成日時：2023年5月31日 19時
