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ぼんさんはあたし達の姿を確認すると、笑いながらこちらに歩いて来た。
「偶然だね。Aちゃん達もここのサウナ来てたんだ」
普段通りのぼんさんに、笑顔を返すとうあ。
「お疲れ様です。夜から行こうって約束してたんですよ」
「へー、ほんと仲良いね」
「やまとくん達も今からサウナですか？」
「いや、俺らは今終わって帰ろうとしてたんだけど、なんかやまとが急に車降りたから何かと思ったらAちゃん達がいてさぁ」
とうあ達が世間話をする横で、やまとくんは一切目を逸らすことなくあたしをじっと見ている。そんなに見られても困る。まるで蛇に睨まれる蛙のごとく動けなくなるあたしだが、勘違いされたくないので重い口をゆっくりと開いた。
「…ドラマでキスしたってやまとくんに会うのは気まずくないです」
「まぁ、そう、だよね」
あたしの言葉に少しばかり拗ねたような顔をした彼は不満気にしつつも、気持ちを入れ替えるように自分の髪をくしゃくしゃと手で乱す。そしてあたしをチラリと見たかと思えば、子供みたく唇を尖らせたまま言った。
「ドラマ…良かったよ。他のメンバーも驚いてたし、俺にしか言ってなかったんでしょ？」
「たまたまですけどね」
「は、たまたまかよ」
「そうです」
「俺にだけ先に伝えたくて言ったんじゃないの？」
「別にそうだと思ってくれてもいいけど」
やまとくんの不機嫌にあたしの不機嫌を丸ごと返すように意地悪く言えば、やまとくんはさっきの不服そうな表情に戻り何かを言おうとしたが、とうあ達との会話を終えたらしいぼんさんがそれを遮るように彼の名前を呼んだ。
「やまとそろそろ戻ろう。まだ編集のチェック残ってるし、あっちゃん達が待ってる」
「…ああ、うん」
「じゃあね、Aちゃん達」
行こうとやまとくんの体を押したぼんさんに、やまとくんは物足りない顔をしながらも仕方ないといった様子で車の方に向きを変える。
「キスするって先言ってよ」
すれ違いざまにそう聞こえた。少し甘さのあるシャンプーの匂いを残し、彼は早歩きで去っていく。
「やっぱりコムドットの車だったんだねー」
「ここのサウナ、YouTuber以外も来るもんね」
それは綾ちゃん達には聞こえなかったみたいで、彼等にひらひらと手を振る二人はもう頭がサウナに切り替わっているらしく店舗の方へ歩きだす。
「…あんなのただの演技だし」
コムドットの車に背を向けたあたしはいじけたようにそう呟き、とうあ達の背中を追いかけた。
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作者名：メイソン | 作成日時：2023年5月31日 19時
