#216/hyug ページ16
side:ヒュウガ
Aが画面から消えた途端に蜘蛛の子を散らすようにテレビから去っていく悠馬達を横目に、俺は不機嫌そうな顔でキッチンに入って行った大飛の背中を追いかけた。
「なぁ、大飛」
最近鍛えているからか、前より引き締まった肩に手を回して名前を呼ぶが「重い」と肩に乗せた腕を一掃された。だがめげずに話しかける。
「なに怒ってんの」
「寝起きなんだよ」
そう言いながらも、やはり気疎い表情で冷蔵庫から出したペットボトルの水を口に含んだ大飛に尋ねた。
「大飛は知ってたの？Aがドラマ出るってこと」
「本人から聞いてた」
「ふーん、じゃあ恋愛系ってことは知らなかったんだ」
「知らないけど…Aだって大人なんだからああいう役があったっておかしくないでしょ」
大飛にしては珍しく距離を置いた発言に、普段と違う大飛の反応に面食らった俺は思わず「でも大飛にだけ知らせてるのはAの可愛いとこだよな」なんて、とにかく彼を慰めるようにそう付け足した。すると大飛は打って変わって目をきらりと輝かせる。笑顔を返した俺の脳内には、大飛の取扱説明書が記載されているのだ。
「あー、やっぱり俺にだけ言ってたんだ」
「多分大飛だけだよ。俺らはドラマの話聞いてなかったもん」
頷いた大飛は小さく口角を上げた。
「そうだよなぁ」
水を片手に、にっこりと笑った大飛は満足した様子で俺の横をすり抜けていく。鼻歌混じりにリビングを出ていく大飛は複雑なのか単純なのかよく分からない。
「AちゃんにLINEした？」
ドラマを眺めながらリビングのクッションに腰掛けていたあっちゃんが俺に尋ねてくる。
「うん。ドラマ出てたのかよって送った」
「なんて返ってきたの？」
「キスシーンで盛り上がったんでしょ？ってきてた」
「Aちゃんらしい返事だね」
笑いながら言ったあっちゃんは眠たそうに目を擦って、ウトウトしながらドラマの続きを観てる。その横で呑気に編集を始めようとする悠馬がふと口を開き「てかAちゃん、すごい大人っぽくなったよね」と呟いた。
「確かにそうかも。初めて会った時より子供っぽさなくなってきてる」
今だってそうだ。テレビに映る彼女はあどけないというよりも、メイクのせいか演技のせいかいつもより少し艶っぽい感じがする。
「テレビ出てるぐらいだし、良い出会いあって恋してるのかもね」
特に何も考えてなさそうなゆうまはそう言い残し、深呼吸と共にまたパソコンに視線を落とした。
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作者名：メイソン | 作成日時：2023年5月31日 19時
