ブルーライトⅤ (ページ11)

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『前に言ってたドラマ決まった！ダブル主演の！』

電話をとるなり聞き慣れたマネージャーの、だがいつもとは違う大きな声が耳の奥にキーンと突き刺さった。目を丸くしたあたしは思わずスマホを耳から遠ざける。いつもは淡々として冷静な彼の高いテンションにびっくりしたが、それよりも内容にもっと驚いた。

「…ほんとですか？ほんとに？ドラマ？」

『今回は確実だよ。実際に監督とも話したしAちゃんに決めたって』

内容は少し前から話が出ていたサブスク配信向けのオリジナルドラマの件だった。でも他の俳優かインフルエンサーを使うかもしれないと、ずっと濁されて中々前に進んでいなかったのだ。縁が無かったかと思っていたのに、どこかで詰まりが取れたかのようにトントン拍子で進んだらしい。

「やった…嬉しい……」

ドラマの撮影が始まった訳じゃないのに、通話先の彼の声を聞いてあたしは一気に脱力した。目の前に座るにこちゃんが不思議そうにこちらを見ている。

『本当に良かったよ！詳しい話はまた会った時に話すね、それじゃあまた』

人通りの多いところにいるのか、マネージャーは雑音と共に颯爽と電話を切った。まだ少し状況が追いつかないままスマホを耳から離すと、にこちゃんが笑顔で尋ねてくる。

「なになに、なんか良いお知らせだったの？」

「前からお願いしてたネット配信のドラマが決まって」

「まじ？すごいじゃん。どんな役？」

「インフルエンサーの女の子です」

「へー、Aにぴったりだね」

感心した様子のにこちゃんに言われて、余計にドラマが現実のものになったんだと実感し始める。好きな人がどうとか言ってたのに、一気にそんな話は頭から飛んでいった。

「ドラマって恋愛系？」

「まぁ恋愛もあるみたいです」

ドラマのメインテーマはSNSで、あたしともう一人の男性俳優とダブル主演とのことだ。それをにこちゃんに伝えると、彼女は楽しそうに「俳優？誰？」と前屈みになる。最近テレビに出始めている若手俳優の名前を言えば、あたしよりも盛り上がるにこちゃん。

「めっちゃいいじゃーん！絶対好きになっちゃうやつだよ」

青春だなぁと呟く彼女にあたしは目を細めた。ドラマで共演したからって好きになるのかと自問した時、不意にやまとくんの顔が頭をよぎったのだ。彼ならドラマが決まったことを喜んでくれるだろうし、誰よりも先に伝えたい。でも喧嘩しちゃったし…とあたしはまた小さな溜息を吐く。

「忙しくなるね。頑張ろうね」

それを見たにこちゃんは自分に言い聞かせるみたく、でもあたしを励ますようにそう言って笑った。