ニューヨークの治安 ページ5
××
「お客様、何かお困りですか？」
一人の銀行員が不審者を見るかのような目でニュートに声をかけた。実際、今のニュートは挙動不審な不審人物にしか見えないわけで。ニュートは「待っているだけです」とベンチを手で示す。
「二人して誰を待っているのかね？」
それでも尚、怪しそうに銀行員はニュートとグレースの顔を交互に見た。すかさず私達の友人ですわ、とグレースが答え、後ろに下がる。ニュートをベンチに座らせた。隣にいたのはさっきティナとグレースを押し退けた男───ジェイコブ・コワルスキーだった。
「やぁ、今日は何の用？」
ジェイコブは落ち着かない様子で二人に訪ねた。ニフラーを見つけようと必死になっているニュートの代わりに、グレースが愛想の良い笑みを浮かべ、ジェイコブの相手をした。
「実は私達、結婚したんです。その名義変更の手続きの為に銀行に」
「はぁ……こんな美人さんと……」
ジェイコブは羨望の目でニュートを見つめる。
しかし、ニュートは上の空で二人の会話を全く聞いていなかった。グレースはニュートの脇腹を肘で突くがそれでも気づかないのだから仕方がない。
「あなたは？」
「パン屋を開く資金の相談に」
「まぁ、パン屋さん！素敵」
グレースは「私、パン大好きなの」と適当に話を合わせる。猫被り演技はグレースの十八番だ。ジェイコブは嬉しそうに頬を緩めるとカバンを開け、ホームメイドのパンを見せた。グレースは感嘆の息を吐く。
「良かったら……一つ食べてみないかね？」
「まぁ、嬉しい」
丁度その時、ニュートが誰かのバッグからコインを盗もうとしているニフラーを発見した。ニュートは立ち上がり、パンを受け取ろうとしているグレースの手を掴む。
「失礼します」
「お、おい、まだ彼女にパンを……」
「す、すみません。パンはまたの機会に。ありがとう、素敵なおじさま！」
グレースがニュートに手を引っ張られながら、ジェイコブに渾身の満面の笑みを見せる。そうしている間にもニュートの足はどんどん進み、あっという間にジェイコブが見えなくなった。
「全く……嫉妬深い旦那だな。……ん？」
ジェイコブはベンチに大きな銀の卵が残されていることに気づいた。
「おーい、これ！」
「コワルスキーさん、ビングリーさんがお会いになります」
女性秘書に声をかけられ、ジェイコブは卵をポケットに入れ、気を奮い立たせてオフィスに向かった。
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