ニフラーは波乱と共に ページ22
××
ニュートとジェイコブは人気のない通りを歩いていた。周りの店には高価な宝飾品、ダイヤ、貴石が並んでいる。ニュートはカバンを下げ、小さな生き物が動く気配がないか目を凝らしていた。
「夕食の時、見てて思ったんだけど……
コワルスキーさん、君、みんなに好かれるだろう？」
「ああ……でも……それを言うならあんただってきっと」
「いや、そうでもない。僕は人を苛つかせる」
ニュートは無頓着に言った。
その声には、悲しみも、怒りも、なんの感情も込められていないような気がして言葉に詰まった。
「……あ、えーと……ほらでも、あんたの奥さんはきっとあんたのこと……」
「奥さんじゃない」
「え、でも……」
「僕とグレースは恋人でもないし、ましてや夫婦でもないよ。もっと繋がりが深いんだ。十年近く毎日一緒にいるし」
きっぱりと、ニュートは断言した。
恋人でも夫婦でもない、それならあんた達の関係は一体何なんだ？ジェイコブは首を傾げる。分かってないね、という風にニュートは笑った。
「
「
「僕の話はもう良いよ。次は僕の質問だ。
君は何でパン屋を開こうと思った？」
「うーん……なんでって……きついんだよ。缶詰工場の仕事。仲間もみんな働きづめでさ、人生なんてあったもんじゃない。缶詰好きか？」
「いや」
「そっか、俺もだ。
だからパンでみんなを幸せにしたいのさ」
そう言ったジェイコブの瞳は希望の輝きに満ち溢れていて、思わず目を細めてしまった。
ふと、ジェイコブが立ち止まった。
彼の視線の先を辿る。車のボンネットの上に、キラキラした小さなイヤリングがあった。視線を下に向ける。歩道の上にダイヤモンドが点々と散らばり、一軒の宝石店のショーウィンドーに続いていた。ニュートは忍び足でダイヤの跡を辿り、何軒かの店のショーウィンドーの前を注意深く進む。
「……見つけた」
ニュートの予想通り、店のショーウィンドーにはニフラーが立っていた。身を隠すのに、宝石を掛けるスタンドのふりをして小さな腕を伸ばし、ダイヤモンドをびっしりと掛けている。
「……全く、困った子だ」
ニュートは大きな溜め息を吐き、ニフラーを見つめた。視線を感じたのか、ニフラーはゆっくりと顔を向けた。
二人の視線が絡み合う。
その途端、ニフラーは掛けていたダイヤを振り払い、逃げ出した。
***
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2134人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
