桃色角砂糖【幸村精市】 (ページ38)

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さようなら。ページ38

『誓いますか？』

『誓わなかったら殺されるんで。』

此処に来ると、あの日のことを思い出す。

２年、私も同じように、立っていた。

あの時は幸村が来れない、という通知が来て
ブタ(丸井)が私のことを呼びに来て、外に出たら、
幸村がいて結婚式が行われて…

｢……なんで、｣

隣に座っていた丸井が、言葉を零した。

私が視線を向ければ、くちびるを噛み締め、
大きな瞳から、涙がこぼれ落ちる。

この場の事もある為、
泣かないようにギリッと歯を食いしばって。

そんな丸井に気がついたのか、
柳が、丸井の肩を掴んで｢止めろ｣と一言。

丸井は小さく舌打ちをすると、
胸糞悪い、と髪をかき乱して下を向いてしまった。

｢…なんで、こんなの、｣

｢丸井、私語は厳禁だ。｣

｢でもよお、こんなのって無いだろ…？｣

ぽたぽたと、床に落ちる雫。

涙も見せない、無表情な私は、
丸井と違って、何を思ってここにいるのだろう？

あの時を想い出した。
懐かしい過去に、少しの間だけ浸って、
すぐに現実に戻されて。

居なくなった今だからこそ、
やたら鮮明に記憶が蘇ってきて、苦しい。

(自分の予想していたことが、本当になるなんて…)

誰が予想した事だろう？

記憶喪失になり、彼女を思い出さず
彼は新しい人生を別の人間と築くなんて。

『皐の事は絶対に離さないよ。』

そう約束したのに、
今の彼に、そんな記憶など無い。

私はただの｢他人｣でしか過ぎないのだから。

「せいいち、」

誰にも聞こえないぐらい小さな声で、
きっと届かないであろう彼の名前を呼んだ。

(もう、こんな風に呼べることなんて無いから…)

名前を呼ぶ、抱きしめる、キスをする。
互いに笑いあったり、料理を作ったり、
気分転換に花を見に行くことも無くなる。

彼はこれから新しい人生を
また作っていくのだから、私はそれを支えられない。

応援する、一部の届かないファンとして、
君にエールを送ります。

｢今日が本当に、幸村、としての最後…｣

私は明日から、
また元の私へと、戻る。