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｢齋藤 皐｣
彼女とここ、１週間と少し過ごして来た。
特に、取り入って目立つ所もなく
普通に普通の女の人。
何もない、はずなのに、
時折彼女は物凄く切ない表情で、
俺のことを見つめている。
気にしなければ良い話なのに、
俺も彼女のその視線が気になり、
いつの間にか、彼女を見ていることが多くなった。
｢…っ、ふ…うっ…｣
彼女は、ベットで泣くことが多い。
必死に嗚咽を漏らさないように堪えながら、
いつも、肩を震わせて泣いている。
何がそんなに悲しいのか、
俺には何もわからない。
前、そっと、肩に触れた時に、
目を見開いて、強ばった表情で俺を見つめ、
直ぐに布団に潜り込んでしまったことがあった。
一種の、｢拒絶｣というものだろうか。
ハッキリ言って、
俺はこの｢幸村精市｣という人物で、
“それ”をされた事がない。
だから、彼女に思い切り拒絶されたあの日、
無性にイライラする気持ちが湧き上がってきた。
(所詮、君だって、同じだろう？)
笑顔で居れば、優しくすれば、
誰だって、近づいてくる。
君もきっと、そうなんだろう？
｢幸村、おはよ。｣
｢おはよう。｣
彼女は、あからさまに俺を避けている。
目を合わせるし、挨拶もしてくれるが、
距離が遠いのだ、何をしていても。
(そんな事しても、俺は振り向かないよ。)
彼女が俺に何かしらの感情を抱いている事は、
勿論勘づいているさ。
前の俺と何があったのかは知らないが、
明らかに、｢恋｣と呼ばれる何か、とは言える。
｢じゃ、俺は行ってくるから。｣
｢おー、行ってらっしゃい。｣
毎回見送られる度に抱く、
モヤモヤとしたものが、胸に引っかかる。
(なんだか、まるで、“夫婦”みたいじゃないか…)
そんな違和感を感じながらも、
テニスコートへ足を運び、そこで出会った人物から、
遠い真実に、1歩、近づいた＿＿
『皐と、上手くやってるんやろ？
幸村くん。』
『え…？』
『あ、すまん、今のは無しや！』
白石は、｢しまった。｣という表情をして
慌てて口を閉じた。
つい、うっかり。
滑って出てきたしまったその言葉が、
突き刺さるとも、知らずに。
｢ただいま、“皐”」
何を考えたのか、
賭けというものに、出たくなったんだ。
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