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Kazuma side
丸い瞳が俺をとらえる。
黒目がちなその瞳の主は､少しの動揺と不安そうな表情を浮かべて俺を見つめた。
『…早川Aさんですか？』
「…え､」
どうして､と呟く彼女の記憶に俺は見当たらないようだった。それもまあ仕方がないと思う。昨日の彼女の目当ては慎ただ1人だったのだから。
そして､未だ困惑気味な彼女へ身体を向けると､ますますその表情が硬くなる。まるでオオカミを前にして怯えるウサギのようだ。…別に襲ったりせえへんけどな､俺。
『俺､川村壱馬って言います。慎と同じグループのメンバーです』
「えっ､あ､そうなんですね。ごめんなさい､私てっきり…｣
そのあとの言葉はよく聞こえなかったが､どうやら彼女の警戒はだいぶ解けたようだった。
『今日はどうしてここに？』
「この辺りを散歩してたら､目に入ってきて気になっちゃって。…川村さんはよくいらっしゃるんですか？」
『ああ､そうですね。事務所の近くなんでよく来ます』
半年ほど前に見つけたこのカフェ。人目につきにくい場所にあり､落ち着いてコーヒーを楽しめる。立地も良いので､練習の合間の休憩時間や退勤後によく足を運んでいるうちに､すっかり常連になってしまった。メンバーはここの存在を知らないため､自分だけの隠れ家のようになっている。
また会えるとは思っていたが。
…こんなにも早く､そしてここで会えるとは。
と､昨日と同じ笑顔を見せる彼女の前で､密かに自身の幸運を噛み締めたのであった
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作者名：胡桃 | 作成日時：2023年3月12日 8時
