それぞれの道 ページ7
「最近男らしさに磨きがかかってない?」
同期の宮っちが優しい顔で失礼なことを言う。
「て言うより、仕事に逃げてるんだよな?」
滝沢社長が笑いながら私の頭をくしゃっと撫でた。
何も言ってないのに、社長は頭が切れる人だけあって、同じく勘もいい。
「うちとしては社畜、大歓迎だけどな」
「えーっ、俺は嫌っすよ!」
「宮田がプライベートを大事にする男なのは充分知ってるから、きっちり仕事して早く帰ればいいよ」
社長の優しさに、嬉しそうに頷く宮っち。
やりがいのある仕事は忙しいけれど、充実していて、寂しさというものから自分を救ってくれているの事実だった。
「北山も藤ヶ谷君も頑張ってるよな、最近よく名前を聞くよ」
そう言われると、自分のことのように嬉しくて、私は微笑んだ。
この間、どこかのアイドルグループのPVを撮ったと言っていた宏。
最近は写真だけでなく、映像分野まで仕事の幅を広げていて、業界で宏の名はかなり知れ渡っていってるらしい。
私が仕事を回さなくても、仕事を選べる立場になった宏。
宏の才能が認められた嬉しさと同時に、わずかな寂しさを感じながら、私は宏の強いコントラストの鮮やかで美しい写真を思い浮かべる。
ただの美しさではなく、見るものに訴え、見るものを惹きつける〖生〗がある写真。
宏にしか撮れない写真。
そしてダブル主演という形で映画の仕事を貰い、着実にモデルから俳優への道を駆け上がっている太ちゃん。
「私も頑張らなきゃ」
「桜木だって充分頑張ってるよ」
「まだまだですよ」
いい年した女がこんな風に仕事だけを生きがいにしている姿は痛々しいのだろうか。
だけど、他の生き方が分からなくて。
そんな時、LINEニュースを見ていた宮っちが、あっ、と声を上げた。
「藤ヶ谷君、ニュースになってるよ」
「え?」
「恋多き女優、凛華、人気急上昇中の俳優、藤ヶ谷 太輔とドラマで共演をきっかけに交際に発展。来年の映画も共演、だって」
読み上げて、私にスマホの画面を見せてくる宮っち。
自分でも驚く程、バクバクと波打ち出す心臓。
一緒に画面を見た社長が笑って、
「映画の話題作りだろ?よくある手だな」
私を見て言う。
「確実にスターへの階段を登ってるね、藤ヶ谷君」
宮っちも感心したように私を見たけれど、私は素直に喜ぶことが出来なかった。
このことだって、喜ぶべきことなのに、嬉しいことなのに、自分でもどうしてこんなに動揺しているのか分からなかった。
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作者名:ましろ | 作成日時:2018年3月26日 20時