愛してる.... ページ50
滝沢社長はがすぐに会社に戻って来いと言ってくれた好意に甘えて、私はTakizawa広告に復職した。
正直帰国した時には既に貯金は底を尽きかけていたし、これから再びどこかのNGOにボランティアとして参加するか、就職するか考えるにも、まずは渡航費や現地での生活費など先立つものは作らなければいけない。
そんな矢先の陽性反応を示した妊娠検査薬。
すぐに病院で検査を受ければ、２ヶ月だと告げられた。
NGOで働くという夢は潰えたけれど、不思議とショックはなかった。
宏の子どもがお腹にいる。
それはこの上ない喜びと幸せだった。
奇跡かもしれないたった１度の逢瀬で授かった命。
産むことに迷いはなかった。
独りで産んで育てることには何の躊躇もなかったけれど、社長に迷惑をかけることになるのが心苦しくて、私は社長に仕事を辞めた方がいいか尋ねた。
「何で？普通に産休と育休を取って復帰すればいいじゃない。当然の権利だし何も問題ないよ」
けれど滝沢社長はそう笑って私の肩を叩いただけだった。
「有難うございます」
社長の優しさに救われ、勇気づけられ、理解も得られ、私は自分を奮い立たせるようにそっと自分のお腹をそっと撫でた。
社長にも宮っちにも誰の子とは訊かれなかったし、言うつもりもなかった。
きっと２人は太ちゃんの子だと思っているかもしれないけれど。
太ちゃんから宏が無事に退院したことを聞いた。
宏のことだからきっとまた旅立つだろう。
紛争が激化し、世界の軍も動き出し、ますます危険な場所になっている地に。
止めることは出来ない。
それが彼の、生きる証なのだから。
かつて宏に愛を教えてくれた人に教わった写真が、いつでも宏を支え続けてる。
奪えるはずがない。
傍にいられなくても、愛してる、永遠に。
私は心の中でそっと呟いた。
∇
私がいない間、宏が愛していたこの庭の木々の世話は、太ちゃんが業者に頼んで定期的にしてくれていたと聞いた。
帰国した時から綺麗な花を咲かせていた木々。
日曜の朝、水を撒こうと庭に出た私は、既に水が撒かれていることに気づいて驚いて辺りを見回した。
瞬間、
後ろから抱きしめられる身体─────。
この温もり、匂い、力強い腕を私は良く知っている。
涙が一気に溢れ出る。
「ただいま」
鼻にかかった甘く色めいた低い声。
「お帰りなさい....」
呟いた途端、私は身体を反転させられ、唇を奪われた────。
fin.
終わり
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作者名：ましろ
| 作成日時：2018年3月26日 20時
