写真に込められた想い ページ34
それは、カメラマンに銃口を向けて微笑む少年という不思議な写真だった。
「覚悟の笑み」と題された写真。
記事には負傷した自分を助けようとしたカメラマンを先に逃がそうと銃口を向け、生きろと願うカメラマンに、「いつか会えるよ、皆死ぬんだから」と微笑んだ14才の少年、と記されていた。
この子の夢はサッカー選手だった。
カメラマンが子ども達にサッカーという球技を教えていたからだ。
14才の少年が放った、「いつか会えるよ、皆死ぬんだから」という鮮烈な言葉と、生きることを諦めた瞬間の儚い笑顔。
この写真は世界中で大きな話題となった。
そして勿論日本でも。
撮影者は北山 宏光─────。
涙が止まらなかった。
宏が撮りたかった真実。
撮りたかった不条理、不正義。
世界中の人々に見せたかったもの。
私に見せたかったもの。
子ども達と笑いながらサッカーをしている彼の姿が浮かぶ。
寝食を共にし、様々なことを教え、子ども達が語る夢を愛おしそうに聞く姿が。
好かれていたんだね。
愛されていたんだね。
子ども達を愛していたんだね。
じゃなかったら、この子だって外国人ジャーナリストに銃口を向けてまで助けたりなんかしないだろう。
そんな笑顔で別れを告げたりしないだろう。
宏、今どうしてるの?
独りで泣いている姿が浮かんで胸が苦しくなる。
宏の想いが世界中に伝わって、この世の中から戦争というものが少しでも減りますように。
そう強く願わずにはいられなかった。
∇
その写真で、国際ジャーナリスト賞を取った宏は、その数ヶ月後、「ボールと銃を持つ子ども達」という写真集を出した。
宏の写真集を抱えて帰ってきた私を見て、太ちゃんが笑った。
「俺も今日のカメラマンさんに見せて貰ったよ」
「どうだった?」
「ん、被写体への愛に溢れてた」
「宏らしい」
「.....あと、Aへの愛もね」
「え?」
「最後のページ見てみて」
太ちゃんに言われて1番最後のページを開いた私は胸が張り裂けそうになった。
たった1文だけ日本語で記された言葉。
〖この写真達を日本にいる大切な友に捧ぐ──〗
「お前らって離れててもずっと一緒に生きてるんだな」
太ちゃんがぽつりと呟く。
「あ、怒ってるんじゃないよ、ただ羨ましいなって。ごめん、俺変なこと言ってるな。Aは俺の傍にいるのに」
そう言って笑った太ちゃんの顔が、何故かあの少年の笑顔と重なって見え、私は思わず目を逸らした。
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作者名:ましろ | 作成日時:2018年3月26日 20時