１つに ページ28
私が幸せになれば、
宏の肩の荷は下りる─────？
『絶対に大丈夫だから』
うん、宏が嘘を言わないって分かってるよ────。
お風呂から出て寝室へ行くと、汚れたシーツは新しいものに取り替えられていて。
太ちゃんが布団を捲ってぽんぽんと隣を叩く。
ベッドに横たわれば、降り注ぐキスの雨。
「んっ、ねぇ、太ちゃん」
「ん？」
「しないの？」
「したいの？」
揶揄されるように言われ、悲しくなって俯いた私を太ちゃんが引き寄せる。
「ごめん、そりゃ勿論したいよ。でもAの気持ちと身体が追いつくまで俺、待てるから....」
「.....いで」
「え？」
「待たないで。太ちゃん、お願い！」
「ちょ、A？！うわっ！！」
気づけば、私は太ちゃんを押し倒し、その身体の上に乗っていた。
「お、襲うの？」
「だ、だって太ちゃんがっ」
私に気を遣うから。
私が怖がっているって決めつけるから。
こんなにも私を熱くさせて。
蕩けさせて。
愛を注いでその気にさせて。
涙が滲む。
「ごめんっ、女に言わせるなんて」
太ちゃんの手が私の後頭部に回り、そのまま引き寄せられ、唇を塞がれる。
「もう、止めらんないよ、俺」
切なそうに眉根を寄せて、私の下唇を吸い上げる太ちゃん。
「いいの？」
頷いた瞬間、視界が反転した。
∇
「あっ、んっ、あっ、んぁぁっ！」
忌まわしい過去がフラッシュバックする。
無理やり突っ込まれ、粘膜が引き攣れる痛みと殺されるかもしれない恐怖に、声も出せなかった。
顔中に降りかかる相手の吐く息がおぞましくて、いっそ意識を手放したいと願ったけれど、激しい痛みがそれを許してはくれず、どのくらい揺さぶられ続けていたのだろう。
男の動きが止まった時、私はやっと意識を手放すことが出来た────。
「A、Aっ、A、俺を見て」
太ちゃんの声で、はっと我に返る。
「A、Aっ、俺の名前を呼んで？」
記憶の中に囚われている私を救い出す声。
「太ちゃ....太ちゃんっ！！」
「Aっ、好きっ、すっげぇ好き。愛してるっ、Aっ」
私の中に太ちゃんが入ってくる。
「A、俺だよ、Aっ」
「太ちゃっ、ん、ぁぁっ、んああっ」
きつく抱きしめられ、唇を奪われ、自分の中にいる太ちゃんを感じながら、涙が零れ落ちる。
あの時以来、誰のことも受け入れることの出来なかった自分が、今太ちゃんと１つに溶け合っている、それが堪らなく嬉しかった────
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作者名：ましろ
| 作成日時：2018年3月26日 20時
