人生の岐路 Ki ページ18
言ったら絶対泣くよなって思った。
泣き顔なんか見たくなかった。
こうして逢えない時間が過ぎて行くのも、俺が海外へ行くのも、Aにとっては大して差異がないだろうと思いつつも、知らないのと知ってるのでは心にかかる負担が全然違うだろうと思った。
紛争やテロのニュースが流れる度に心を痛める彼女の顔が浮かぶ。
なんて、自惚れだろうか。
「彼女には凄く気を遣うんだね」
横尾さんに揶揄されるように言われ、俺はそんなんじゃねぇよと呟いて、横尾さんの腕の中から抜け出る。
「あー、ベットべト。なぁ、俺んち戻らね？ここ、シャワーもねぇし。２人でソファーじゃさすがに狭いし」
「そうだね、俺とミツはベッドとシャワーは必需品だもんね」
「は？ばかっ、エロオヤジ！」
「誘ってきたのミツでしょ？」
「う、うるせぇっ」
そんな軽口を叩き合いながら、俺達は支度を済ませると事務所を出た。
∇
横尾さんに話を聞けば聞く程、写真を見せられれば見せられる程、戦場カメラマン、ジャーナリストへの魅力に取り憑かれていく自分。
それは決して横尾さんと一緒にいたいからじゃない。
そんな生半可な気持ちでやれる仕事じゃないのは理解っている。
どちらがいつ先に死んだっておかしくないのだ。
それでも横尾さんと同じ景色を、同じ真実を、同じ希望を、俺もカメラに収めたいと思った。
ずっと横尾さんの背中を追って生きてきた。
それは今も変わらなくて。
やっぱり凄い人だと思う。
俺は短い期間で様々なことを学んだ。
そして横尾さんが先に行ってしまった喪失感を埋めるように、仕事に没頭し、英会話教室に行き、世界情勢を勉強する。
そんなある日、現場で久しぶりに藤ヶ谷に会った。
以前よりもずっと堂々として、輝いている藤ヶ谷に、こいつも頑張ってるんだなというのが分かって嬉しかった。
やっぱり俺は仕事に一生懸命な奴が好きだ。
「終わったら飲みに行かない？」
藤ヶ谷に声を掛けられ、
「おう」
胸がドキンと高鳴った。
久しぶりの藤ヶ谷を前にして摂取するアルコールに、みるみる上がっていく俺のテンション。
「北山、飲みすぎ」
「大丈夫だって」
だからつい、言ってしまった。
俺の夢を。
これからしようとしてることを。
藤ヶ谷には理解して欲しくて。
こんな自分でも、同じ男として認めて貰いたくて。
「俺、戦地の写真を撮りたいんだ」
生きる意味を知りたいから────
「それを藤ヶ谷に見て欲しい」
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作者名：ましろ
| 作成日時：2018年3月26日 20時
