彼女の写真 Ki ページ17
その写真は、俺がAの家を出ていくと決めた後、疲れてソファーで眠っているAを見て、思わずシャッターを押した写真だった。
「ねぇ、ミツ」
「あ、写真の奴は大学の同級生で友達。唯一の女友達でさ」
焦って早口になる俺を、可笑しそうに見つめる横尾さん。
「寝顔を撮っちゃうくらい、大切な友達、ね」
「そ、それはっ」
顔に熱が一気に集まっていくのを止められなかった。
「大切な人、なんだね？」
「ん、ま、まぁ、そーだけど」
「そっかー、ミツにもそういう人がいるのか」
「違っ、だからただの友達だって言ってんじゃん」
「うん、分かってる。でもミツにそういう人がいて凄い嬉しいよ、俺」
横尾さんがあまりに嬉しそうに笑うから、俺は何だか複雑だった。
俺とAはそんなんじゃない。
つい最近まで藤ヶ谷に恋していたけど、こうして横尾さんに再会したら、俺の気持ちは何も変わってはいなくて。
俺は今でも横尾さんが....
「聞かせてよ、その子のこと」
「んな大したことじゃないって」
「それでも聞かせて。俺がいなくなった後のミツのこと、全部知りたいから、ね」
優しく頭を撫でられ、俺は今までのことを頭の中で思い返す。
横尾さんを失って、寂しくて、辛くて、苦しかった日々。
だけどAに出逢えた。
Aに出逢えたから、俺は....
Aのことを想えば、愛しさと切なさに胸が締め付けられる。
A、お前今、何を想ってんの？
そんな俺の様子を横尾さんがじっと見つめていたことに、俺は全く気づかなかった。
「ミツは自分で気付いてないんだね」
「ん？何が？」
急に言われて戸惑う俺に、
「ううん」
けれど横尾さんはそれ以上は何も言わなかった。
俺は横尾さんの腕の中で、横尾さんが去って行った後の自分がどんな風に生きてきたのか、ぽつりぽつり話し始めた。
全部を話し終えた時、俺には横尾さんが少し涙ぐんでるように見えた。
横尾さんはしばらく黙って俺を抱きしめていたが、
「ミツ、戦地で仕事をすること、その子にちゃんと伝える？」
「俺....黙って行こうって思ってる」
「それは駄目」
「何で？横尾さんには関係ないだろ」
「黙っていなくなられる辛さは俺が良く知ってるから。それに」
横尾さんが苦しそうに顔を歪めた。
「大切な人は苦しませちゃ駄目だよ」
「だ、だって、言った方が傷つくだろ！」
「そう思うなら戦地になんか行かない方がいい」
俺は何も言い返すことが出来なかった。
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作者名：ましろ
| 作成日時：2018年3月26日 20時
