忘れさせる。 ページ8
おかしいな。何でこんな話になった？
なぜか責められているようなのは、気のせいなのかしらん。
気の……せいでもない気もする。だって翔は、天井を見ながら溜息をついた。
「だから。結局おまえも……してきただろ？色々。恋愛ってやつ」
「翔だけよ♡」
「ふざけんな。俺の前置き台無しにすんな」
「でも私のなんて、可愛いオママゴトみたいなもんばっかりで、」
いや。それは言い過ぎか。
よく言うわって、翔が言いたいのは分かる。黙ってるけど。
だって私はついこの間まで課長とどうのこうの、あったわけで……
最初は普通にお付き合いをしていた、未婚の彼と。
でも私の憧れる素敵な先輩と結婚すると知って……なのに彼に誘われるままズルズルと関係を続けた。
偽妊娠からの結婚……私から奪うことも、全ては先輩の策略だったと知って。
私はやっと、全てを清算した。
翔に非難されて。翔に泣き付いて。翔をまた、好きになって。
翔が居なかったら、私はきっと今だって……
「翔だけ……では無かったけど。翔だけ……でありたかった」
「まぁ、それは俺もそう思ってることだけどね」
天井を見ていた翔が、やっと、また私の方に向いてくれた。
「ままごとだろうと、俺だって……考えたら良い気分はしねーよ」
「そ……か」
「まぁでも。俺は詳細は聞きたくないんで。ぜってぇ言うなよ」
「おぉ？突然強く出ましたな……」
「女はペラペラペラペラ、こっちが聞きたくもねぇ事まで勝手に喋るから」
「あ！またオンナっつった！」
「一般論だわ」
「絶対違う！ペラペラペラペラ喋るなんて、親しい間柄に決まってるんですぅー！」
「……ハァ。流せよ、そういうとこはさ」
しょうがねーなって顔で。
もっと近くに寄せてきた翔の腕が私の体の下に入り込む。
私は……これ以上口を開くと、やっぱりどうしようもない可愛くないことばかり言っちゃう気がして、抱き寄せられたまま黙っておくのが得策だと思った。
「で。どうしてくれんの？」
「へっ？」
「俺がおまえの過去を思って眠れない夜は」
「……眠れないんスか？」
「クッ」
デコとデコの距離0cm状態で、翔はまた噴き出した。
またからかわれてんのかワタシ。もうその手には乗りませんよーだ！
「じゃ……忘れさせてくれる？」
「へっ？……ぇ、」
突然勢いよく塞がれた唇。その本音が、結局分からない。
でもそこからは、翔は全然クスッとも笑わなかった。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
