守る。 ページ6
ショウサクライの部屋は広い。そしてお風呂も、同じく。
ま、我が家の銭湯に比べりゃ、ありんこの巣みたいなもんですけどね。ははん。
って。銭湯とマンションの風呂を比べちゃお話にならないけど。
「ババンババーン……と」
余裕でバタ足できる湯船の中で、私はぼんやり鼻歌交じりに考える。
この都会でさ。一体どれくらいの独身男が、こんなお風呂に入られると思う？
ウチの銭湯に来るお客さんを見ていたら、よく分かるよ。
最近はレジャー化していて、古き良き銭湯ってやつをわざわざ求めて来る人もいるけど。
本当にお風呂もついていないような所に寝ていて……たまの贅沢に入りに来る人だって、いる。それが、現実。
「私、決めたわ」
「は？風呂から出た途端に何の決意表明が始まった」
「ウチの銭湯は無くしちゃだめだと思うの。市民の生活を守るために！」
「……なんかわかんねぇけど、いいんじゃね？つーか、陽平も別に辞めるつもりねぇだろ」
「でもさ。それじゃバカ兄貴の奥さんになる人に負担がかかるでしょ……いつか、じーちゃん死んじゃったらさ」
「ん。だから？」
翔は読んでいた台本を閉じて、私に向き合ってくれる。
それはきっと、真面目に話してるんだって分かってくれたからだろうな……
今まではフッツーの会社勤めの兄貴と私、夜とか空いてる時間にテキトーにじーちゃんの手伝いをしていたけど。
我が両親は気ままな海外暮らしだし、本当にじーちゃんに何かあったら、この先銭湯経営なんて難しいんじゃないかな。いくら陽平の奥さんになる人が銭湯好きだとか言ってもさ……
「土日だけでも手伝うかな……本気で」
翔をチラ見しながら、ちょっと小声になる。
だって。せっかくこれから翔と暮らそうと……荷物もまだ全然運んでないけど、でもきっと一番ウキウキな時期なのに。
「ふーん。いいんじゃね？」
「ぇ、いい……の？」
「どうせ俺、基本仕事だし。なんなら夜迎えに行ってやるし、銭湯入るついでに」
「ぁ、そう」
「それよりも。大体おまえ、いつからコッチちゃんと移るの。荷物運ぶならそれなりの手配がいるだろ、事前に言っといて貰わねーと」
「陽平に頼めばいいんじゃね？」
「フハッ。それで足りるならいいけど」
翔は小さく噴き出して、また台本を手に取った。
快諾、話はおしまいって意味なんだろう。
「次の週末とか、陽平頼んでみるね」
私が最後に言うと、もうこっちを見ないでオォとだけ返事が返って来た。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
