やり逃げる。 ページ5
翔は、しばらく黙ったままだった。
私も黙ったまま、大人しく頭を撫でられ続けていた。
「まぁ、あれだ。結局さ、過去は過去」
「……ん」
「俺とおまえにとっては、今だけが大事。あと……これからもね」
「でもさ……ハイ先生！気になるんですけど。気にはなるけど知りたくもなくて、気になって気になって夜も眠れなくなったら、どうしたらいいんですか？」
「……おまえなぁ。せっかく俺がイイ話をしてやってるのに」
翔は呆れた声を出した。そりゃぁそうよね？絶対ウザイもん、今の私。
だけど……本音を言っておかないとさ？翔には……
「眠れなかったら……そうだなぁ……よいしょーと」
「ひょっ？」
「……こういうコトで、一晩中付き合ってやろうか？」
「っ！なっ！へっ！」
翔はくるんと私をソファに横たえると、ニヤリ笑いながら囁いてくる。
こういうことって、そういうことですか？やっぱり？
マサカのこんな展開キター！なのか？？
「……で。今夜は、気になるの？……忘れさせてやるよ？」
「お！お……おぅっ？」
“気になるワ”って瞳をウルウルさせたら、本当に朝までコースなのかしらん？
誘われちゃってるの？やっぱり？ここはお応えしておくべき？？
「いやっ。あの、いいんだけど……いいんだけどね？今日はほらまだお風呂も入ってないから……」
「くっ！……ははははっ！」
「……」
再びですよ。
ハライテェが始まって、翔はケラケラ笑いながら、ウルウルしかけた私を放置してこの場を立ち去った。
「もうっ！やり逃げ禁止ー！」
「まだやってませーん。はははっ」
叫んだ私に、トイレ方面から小バカにした声がのんびり投げられる。
あっそ！あーそう！腹痛いのはソッチが原因なんじゃないんスか？ふんっ。
アイドルだってそりゃトイレにも籠るわよね、妖精じゃないんだから。っつーか朝まで籠ってろってんだ！
「今が大事。これからも。うん。そうだそうだ……」
とりあえず、翔が言っていたことはちゃんと受け止めたよ。
からかってばっかりで腹立たしいですけども。
過去は過去……それは、自分のことだって、そう。
「翔ー。私風呂入ってくる」
「一緒に入ってやろうかー？」
籠り中のショウサクライに声をかけると、魅力的な提案をいただいたけれど。
「トイレ野郎は御免だわ。ふんっ」
「ははっ」
私はなんとなく、今日は強がってお断りすることにした。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
