妖精、ではない。 ページ4
痛い。ほっぺた、痛いよ。
やっぱりショウサクライはドエス野郎だと思う。さっきからニヤニヤニヤニヤしやがって！
「……何人ですか」
「ん？」
「過去の女は。一体何人なのよう！この際言いやがれってんだ！おぅおぅっ？」
「……フッ。そりゃぁおまえ、この両手足の指の数じゃ足りないほど、」
「！！！」
「……くっ。はははははっ！ひー！その顔！ハライテェ……」
私の頬を摘まんでいた手は、今度はその腹を擦ってヒィヒィ笑ってる。
……思いっきり遊ばれてるよ。
「もういいですぅ。あーもう。風呂入ってこよっと」
「あのさ」
「いてっ！もうっ、なんなのさ！」
「気になる？俺の過去」
ソファから立ち上がろうとした私を羽交い絞めのごとく抱え込んだまま、翔は膝の上に私を置いて、低めのトーンでそう聞いてきた。
「気に……なりたくない」
「ぶはっ！正直な回答だな」
「なりたくないけど、なるわそりゃ。だけど妖精じゃあるまいし？今のショウサクライが本気でDouTeiだったらドン引きでしょうよ。いくらアイドルつっても、世のファンはそこまでお花畑じゃないわ」
「そこまで聞いてねーわ。何の話をしてんだ」
妖精、になれなかったショウサクライは、引き続き私を抱えたままで鼻で笑った。
「私は……フッツーの女の子ですよ」
「子は図々しいんじゃねーの、そろそろ」
「ハッ！とにかく！……普通だよ。何の捻りもない。だからさ……つまんない嫉妬だってしますよ……」
「ふーん。まぁ、それに関しては俺も同じだけどね」
ちょっと、力の加減が変わった。
なんかの技をかけられているかのようだった私の状態は、何やら随分甘い様子になっていて。
それは……翔が、ナデナデと頭に優しく触れ始めたからで……
だから私は、飼い慣らされた猫のように、目を閉じてされるがままでいた。
「20超はさすがに言い過ぎだけど」
「……」
「まぁ。人並みに色々あったよな。いい思い出だって、どうにもならない思いだって……それは、おまえもだろ？」
「……ん」
翔が言いたいのは、私と課長の関係について。それは間違いないし、今だってきっと引っかかっているんだと思う。
ズルズルと、既婚者と関係を続けていたのは私の甘えとだらしなさ。
そしてそれを救ってくれたのは、間違いなく翔で……
私ばっかりが、クネクネと「アナタの過去に嫉妬しちゃーぅ♡」なんて言える立場じゃないのは分かってる……よ。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
