言わない。 ページ25
人と会っている時は失礼だから極力時計を見ないようにはするが、陽平がトイレに立った時にスマホをサッと確認してみた。
……何も届いていない。
陽平と飲んでくるっていう件への返事はシンプルに来てたけど。
今日は、本当は早く帰りたいとも思ってた。なんとなく。なんとなく、だけど……
「飲み過ぎちゃったね〜。どっこいしょっと」
「今さらかよ」
「ねぇねぇ。Aってどう？翔の前だと、やっぱり可愛らしいの？昔のアイツみたいにさぁ」
「うーん？昔のアイツかぁ。確かに可愛かったよな」
「うんうん！で？どうなのよぅ！どんな所が可愛いの？ん？」
身を乗り出し聞いてくる陽平に、一瞬デレた顔をお見せしてしまいそうになったが。
……あっぶねー。言うか、そんなこと！
「……いや。教えない」
「えー！ケッチー！」
「俺だけが知ってることがあってもいいだろ」
「あらやだ翔ちゃんたら。独占欲？」
「うっせ！でも……大体、俺だけが知ってるアイツなんて……まだ全然ねぇよ」
「……ふぅん？」
今の言い方はよくなかったかもしれない。
なんか、拗ねてるみたいな……バカだな、俺。
「陽平。あのさ」
話題を変えたかった。というか本来の目的はコッチだ。
もっと、フザけたノリで言えたら良かったのかもしれない。
でもこういう時に、俺はうまく空気が読めないのか。
バカみたいに真面目になって、自分に入っちゃうっつーか。
「おめでとう。幸せにな。まぁ日程的にはまだ早いけど」
色々頭で考えても最終的に出てくるのは、無難で型どおりの言葉だった。
「おぉ！うん、どうもどうもー」
「……うん。俺らも、」
早く後に続けるように？
いや、なんか……違う。
安っぽくならなさそうな言葉が見つからず、そのまま口を噤む。
そんな俺をジッと見たあと。陽平は僅かに残った酒を、飲み干して静かに口を開いた。
「Aはね。翔の仕事のこと……他、様々色んなこと、よーく解ってると思うよ？じゃなかったら……ずっと翔を、なーんにも考えず追いかけてたんだろうし？逆にね」
「……そうかもな」
「翔の思う枠とか形とか、そこには簡単におさまらない奴なのかもね？でも……信じてやって」
「それは俺のほうだよ。信じていただくべきなのは」
「ううん。Aの……無限の可能性ってヤツ、信じてやって？」
陽平は、ニヤリと笑った。
俺がその意味を理解するのは、きっと……もっと先になるんだろう。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
