贅沢者。 ページ22
「試験勉強は順調？」
「まぁ……」
「一夜漬けはやめようね」
「まさか。そんな。ははー」
完璧バカにされている気がする。
けど、「毎日しっかり一時間やっておりますです、ハイ！」なんて本気の受け答えをしたところで何が面白いのかという話で……
いや。昇格試験に対する上司との真面目な会話なんだから真面目に答えればいいのよ……バカか、私。
「そうかぁ。いよいよ主任昇格かぁ……僕もすぐ追い越されちゃうかもね？フフ」
「カチョーはいつまで課長やってるんですか」
「……あのね。この“上”って、なかなか難しいんだよ？」
「難しいから試験があるんでしょーが」
「大体、僕そんな出世タイプじゃないし」
「言い訳ばっかりしてると、嫌われますよー」
「……」
しまった。調子に乗り過ぎた。
誰に？と聞かれないのも、誰からと言わない私も、大失敗だと思う。
「……娘さんから」
私は咄嗟に誤魔化して、付け足した。
「……男の子だよ。生まれるの」
余計に気まずくなった。
そのまま
「……順調で何よりです」
「ん。ありがと」
いや。別に、気まずいのは私だけかも……
昔から、この人は表情だけじゃ何考えているか分からなかった。
「そうだ。筆記試験が受かったら面接があるでしょ」
「まず筆記受からないと意味ないですけどね」
「ん、それは大丈夫として……練習て必要？よければ付き合うけど。どこの子たちもやってるから。会議室とかちょっと使って雰囲気も一緒に、」
「いえ！……そういうのは結構です」
「そう？」
「あ！でも、ざっくりでいいので、ポイントとか……社内メールで」
「そうだね。分かった」
やっと辿り着いた。長かったような短かったような……
課長は部署に入ると周りににこやかに挨拶しながらさっさと自分のデスクへ向かう。
私も……不自然に彼を見ないように床を見ながら席へ戻る。
……本当に。きっと、私ばかり。
気まずさとか警戒とか隠しもしないで……自惚れちゃってる？っていうハナシよ、これじゃ。
翔が居るのに。翔と幸せなのに。
翔に救ってもらったのに……
その上、まだこんな風にギクシャクしちゃってるのは、ただの贅沢者よ。
あー早く試験受からなくちゃ。
さっさとココを異動してさ。そのために受ける決意したんだから……課長から離れるために。
そうしたら、やっと……
やっと、私の過去が、過去になる気がする。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
