バカで居たい。 ページ15
翔のナデナデ攻撃は終わらない。
いよいよ原形をとどめなくなるんじゃないかしらんって心配になってきたよ、この潰れた顔……
「まぁ、ね。今さらですし？おまえに言ってもしょうがねーんだけど。あの頃のAのまま、ずっと居させてやれた可能性を考えちゃったりして……つまりここに来るのに時間がかかり過ぎたっつーか」
……何を話してるの？
翔の声は、甘くて楽しそうだったものから、ちょっとだけ変化してた。
「だからってわけじゃねーけど。俺……少しでも早くちゃんとした“形”を持ちたいと思ってるから」
撫でていた手が止まって。ただ、私の頭の上に置かれてる。
翔の手は、大きくて。ずっと……昔からずっと、温かい。
「一般的なそれより遥かに時間がかかるし、簡単じゃないのは確かだけど。だからこそ、だな。動けるところから動いてくから。身近な所にはもう話し始めようと思ってるし」
……ねぇ、翔？
それ以上、私は聞いていてもいいのかな。
こんな状況で……翔の思いを知ってしまって……いいのかな。
「もう泣かせないから。いや、うん。そうだよだから……必要の無いところは、って話。今までの分もさ」
……今までの分って何？
私は別に、あんたにそんな泣かされた記憶が無いよ？
やっぱり片側だけの話じゃ、何が進行中なのか完全には読めない。
「俺が隣にいたら必要無かったかもしれない、そういう分を……なんだろ、うまく言えねーけど。あぁ、そうだ。コイツが素でフザけてる時、マジでバカでさー。兄妹そっくり。ははっ！」
翔が何を言いたいのか、ほとんどきっと分かってない。
だけど、翔はすごくすごく……私と向き合おうとしてくれてる。というかずっと、向き合ってくれてる。
私は、震えそうになる頭や体を、じっとさせているのがだいぶ限界になってた。
「そう、バカで……なのに、これが無いともう、俺この先ぜってぇ落ち着かねーわ！って感じ。もう一種の中 毒だな、ははははっ」
こんな形で知るのが正しいのかは分からないけど。
私はきっと、すごく……愛されちゃってる……よね？
「Aがいつまでもフザけたバカで居られて、俺がそれを見て笑っていられるように。……つまり、そういうことだと思うわ」
また、翔の声は優しく穏やかに戻って。ナデナデ攻撃も再び始まった。
私はそれをきっかけにモゾッと寝返りをうって、翔の居るほうに背を向ける横向きの体勢に変えた。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月15日 0時
