きみとぼくと【∞／短編集】6

それだけの幸福【黒×青】 ページ31

○一般人





黒「あーーーーーーーーーー」



意味不明な唸り声をあげて、鍵穴に鍵を差し込む。



来月から長期の研修があるからひたすら仕事に追われて


なにか大事なことを忘れてないか不安になって、家でも心が休まらない。



いつもより重く感じるドアを引いてそっと体を滑り込ませる。



ふわっとかおる、いい匂い。




中に入ると章大がテーブルに寝ている。



いつも俺が座る席の前には、なにか布で隠されたもの。



そっとその布をとると



ちょっと形が歪なハンバーグと、



千切りではないキャベツのサラダ。






ハンバーグを温めようとキッチンに向かうと



味噌汁が入った片手鍋。



炊きたてのご飯。




起こさないようにそっと準備を整えると


手を合わせて、みそ汁を啜る。




しょっぱかったり、甘過ぎたり


決して美味いとはいえないけど、でも




俺の凝り固まった心をふわっととかしてくれる味。




青「ん…あっ裕くん！おかえり！



ごめんな、あんまうまないやろ…？」



練習してきたんやけどなぁ…なんてちょっと申し訳なさそうに微笑む章大が



自分にとってかけがえのない存在だと思い知る。



黒「すごい美味いで？」


青「ほんまぁ？よかったぁ」



ふにゃんと笑う章大が、好きだ。




青「ごめんな、押しかけて。」


黒「いや、俺こそ構ってやれずに、ごめん。」



青「えーの！大変な時期なんやから。」



黒「全部終わったらちゃんとお前んとこ行くから。

何したい？」



青「んー…


なんでも楽しいからええよ！でも、



甘やかして欲しい、かな？」



そこで初めて章大の「寂しい」という感情を知る。




鈍い俺の恋人でいるのは辛いだろうに


それでも健気に愛してくれる章大が、カナシイ。




すっと立ち上がって


後ろから椅子ごと抱き締める。




首に唇を押し当ててくる章大の温もりが


俺の疲れを癒してくれる。




黒「一緒に、温泉行こうか。」



青「え、温泉！行きたい！」



黒「章大癒して〜」



青「ええっどうしよう？」



黒「こうなっていてくれたらええの。」



青「それだけ？」


黒「それだけ。」


青「…おん。」



たったこれだけで、こんなに幸せになれるなんて。



そうしてそのまま



はにかむ笑顔がかわいい章大の唇を奪った。

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