トイレに行きたいなら「はい」と言え。【国見英】

10. ページ10

.





「彼氏に暴言吐く彼女には、教育が必要かな」

『ごめん君がそう言うとほんと危ないやつに聞こえるからやめて』


「…お前の勘、当たってると思うけど」

『なおさらやめて！！？』






英にじりじりと迫られて、私も距離を取るように後ろへ下がる。






…ガシャン






……あ、やべ。


ずっと後退りしていたら、柵に背中がついてもう下がれなくなってしまった。







「…もう逃げ場ないね」

『まままま待って落ち着こう話し合おうおい早まるなおいおいおい』

「落ち着いてるけど？」

『じゃあそのままUターン推奨です！！！』





顔を青ざめながらそう言っても

そんなことは彼はお構いなしなようで。






「…授業サボって、二人で…」

『じょ、冗談はやめてくれる…！？』







英が私の顔の横に手を置き、ガシャンと柵を掴む。



場所も場所だからか

なんか…いけないことをしてるような気持ちになる。






「なんで？恋人じゃん」

『だから…！それは今日だけで、本当の恋人じゃないって…――」





「俺、お前のことが好きなんだよ」







私の首元に顔をうずめて


今まで聞いたことのないくらい、弱々しい声でそう言った。






『…あ、あき、ら…』

「俺、Aが好き。ほんとに好き。すごい好き」







いつも意地悪でドSで無気力で変態で、そんな英ばかり見てきたけど




こんな英、知らない。



こんなに小さくて切なそうな英なんか、知らない。







『…あき、』

「俺じゃダメなの、どいつがいいの。お前への気持ちは誰にも負けないのに」







英の吐息が首元にかかって

ほんの少し、くすぐったい。




いつの間にか、英の手は私の後頭部と腰部に回されていて




ぎゅ、と強く、だけど優しく


愛しそうに抱き締められた。







「あんな告白の仕方、卑怯だってわかってた」

『……』






「でも、どんな卑怯なことをしてでも お前を手に入れたかった」







私は今、なんと言えば良いのだろう。




「そっか」と無愛想に答えれば良いのか。


このまま何も言葉を発さないのが良いのか。






それとも







「私も好きだよ」と言えばいいのか。





いや、まず私は英のことが好きなのか？






わからない



わからない








.









『――私には、わかんないよっ…！！』








私がこの状況でとった行動は






【逃げる】という行動だった。






.

11.→←9.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す