花束を君に(短編集) (ページ11)

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テヒョンと出会ったのは去年のお盆だった。
先祖の墓参りにと立ち寄った花屋で働いていたのがテヒョンで…
まあ、私目線、完全に初対面という訳でも無かったんだけど。
そりゃああれだけ綺麗な顔立ちをしているのだから、噂くらいは耳にするだろう。
”街角の花屋に花よりも美しい男性が居る”
…その程度は。

「それで？」

「また僕の所に飲みに来たって？」

『いいじゃん、ジンくんくらいしか頼る人居ないんだって』

「ヤー、気持ちは分かるけど今何時か分かってる？正気か？」

『深夜3時』

「そうだよ深夜3時だよ、まったく、僕寝てたって分かるよね？今寝巻きなの見えてるよね？」

『うん、知ってる。ありがとー、お邪魔します』

「ヤー、勝手に入ろうとするな！」

『洗面台借りるね〜〜〜』

「…ほんとにさあ、」

『何』

「泣かれたら何も出来ないだろ…」

『泣いてないよ』

「はぁ……」

『ありがとね、ジンくん』

「どういたしましてね、Aちゃん」

『大好きだよ』

「テヒョンより？」

カシャン、とガラスがぶつかる音がする。
驚いて顔を下に向けると、洗面台の中で欠けたグラスが揺れ動いていた。
動揺して手に持っていたグラスを落としたのだ。

「怪我してない？」

後ろから覗き込んで私の手を確認するジンくん。
こういう時、テヒョンだったら抱き締めながら確認してくれる気がする。
…また、テヒョン。

『大丈夫…』

「冗談だよ」

『え？』

こちらを見ずに割れたグラスを片付けるジンくん。
洗面所から出る前に、こちらを振り向いて言う。

「気にしないで」

少し離れた台所から、ビニール袋を広げる音がする。
ねえ、ジンくん、気にしないでって、ガラスで切った怪我のこと？

『血まで流して行きなよ』

それとも、テヒョンのこと？