±12 一件落着 ページ12
Aと伊武は教室に戻った後、すぐに例のキーホルダーを渡しに神尾の元へと向かった。
それを差し出すと、神尾は今にも嬉しくて泣き出しそうな顔でお礼を言った。
「で、なんで深司とAが一緒にいるんだ?」
「えっとね」
今までの経緯を説明し終えると、神尾は納得した表情でなるほどと頷いた。
「どうりで、深司の戻りが遅かったわけだ。でも、あそこの倉庫マジで出るらしいからな……この時間になると怖いよなぁ」
「や、やっぱり……」
Aは神尾の話を聞いて、部室棟での伊武の話を遮って正解だったと確信した。怪談話的な雰囲気ではあるなと薄々勘付いてはいたが、まさか本当にそうだったとは。
「それより、俺は部活に戻るけど、ここから先は一人で帰れるよね」
「うん、大丈夫。伊武くん本当にありがとう」
「別に、大したことじゃないし」
Aがお礼を言うと、伊武は視線を逸らして答えた。目を合わせないのは、決して怒っているからというわけではないだろうとAは感じていた。
キーホルダーを渡すという用事も済んだので、Aは二人にまたねと告げ、その場を後にした。
*
「へぇ、それにしても深司って案外面倒見がいいのな」
Aの見送りを終えた後、テニスコートへ向かう途中神尾が呟いた。
「え、別に普通でしょ。それともなに、神尾は俺が迷ってる人を無視して、そのまま見捨てる非情な奴だとでも思ってたの?なんだよ、むかつくなぁ……」
「あ〜!そうじゃねぇから、ぼやくなって!」
二人がそんなことを話していることもつゆ知らず、Aは晴々とした気持ちで家路についた。
キーホルダーの持ち主も見つかったことだし、ひとまず一件落着だ。こんなに早く解決出来るとは思ってもみなかった。
Aの頭の中には、神尾のあの嬉しそうな顔が鮮明に残っていた。
嬉しそうだったなぁ。神尾くんって絶対杏ちゃんのこと──
今度、遠回しに杏ちゃんのことをどう思ってるのか聞いてみよっと。
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作者名:円山 丸 | 作成日時:2019年10月29日 21時