▽ ページ14
忍術学園に戻り、飛んできた小松田さんに緊急事態を伝える。保健委員会を起こすよう頼み、僕は医務室に駆け込んだ。
「Aを…………助けてください!」
あんなに人のために必死になったのは、初めてかもしれない。
新野先生と駆けつけた保健委員会に意識のないAを預け、服の下の白い柔肌と生々しい傷を見届ける。もう、僕にできることはここになかった。
静かに医務室を出ると、そこには寝巻きのまま息を切らした久々知先輩がいた。待てよ、と尾浜先輩も走ってくる。
僕は自分の姿を見下ろした。手も服も、おびただしいAの血で濡れている。まだ乾いていなかった。
「Aが瀕死の重傷って………本当か……?」
はぁ、はぁと息をつきながらも先輩は僕を見据える。「ええ」と僕は相槌をうち、久々知先輩の横を通り抜けた。
「後はお願いします。僕は実習が残っているので」
「兵助、やめろ!」
尾浜先輩の声に振り向くと同時に、頬に痛みが走って僕は床に倒れ込んだ。
「お前は! Aが心配じゃないのか!?」
久々知先輩が眦を釣り上げて叫ぶ。尾浜先輩に押さえられていなかったら、もう一度僕を殴っていたのだろうか。
痛いなぁ。ジンジンと痛み出した頬を押さえる。そして久々知先輩を見上げた。
「…………おやまぁ。先輩もそのようなお顔をされるんですね」
五年生の中では何を考えているのかさっぱりな久々知先輩の表情を、Aは簡単に引き出してしまうんだね。初めて見たなぁ、こんなに怒っている顔は。
「僕は、Aに言われたので」
ゆっくりと立ち上がる。
「仲間らしくしろ、と。だから実習に戻らないと」
あぁ、どうして僕は泣いているんだろう。
「喜八郎…………」
尾浜先輩が声をかけてくる。僕は汚れた裾で頬をグイッと拭った。
・
「…………喜八郎」
気がつくと目の前に久々知先輩がいた。先輩は僕の肩を両手で持つ。
「昨日はごめん! 思い切り殴ってしまって!」
全力で謝られた。僕は目をギュッと閉じて謝る久々知先輩の顔を真正面から見たわけで。
「な、殴った? 喜八郎、一体何が……」
「うるさいなぁ」
僕は困惑する滝夜叉丸の声を払いのけ、先輩の顔を見上げて笑う。
「気にしてませんよ。僕も同じようなことされたら、きっと先輩を生き埋めにしましたから」
「はは、洒落にならないな……」
互いにもう気にしていないんだ。久々知先輩も苦笑いだった。後はAに会うだけだ。
256人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メロンパン(プロフ) - みんながわい”い”ーー!!!😭 (2022年11月3日 20時) (レス) @page16 id: c77e52a74c (このIDを非表示/違反報告)
まみむー(プロフ) - あいさん» ありがとうございます……! (2022年4月27日 0時) (レス) id: af895ee0d7 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 初コメです!! これ面白いです! 続き頑張ってください (2022年4月13日 8時) (レス) @page44 id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
まみむー(プロフ) - 愛衣さん» 愛衣さん、いつもコメントありがとうございます!読んで貰えてこその小説ですので、愛衣さんのような方がいてくださって本当に嬉しいです(*^^*)コロナに負けずに頑張りましょうね!これからもよろしくお願いしますm(_ _)m (2021年6月18日 23時) (レス) id: 53993a59b7 (このIDを非表示/違反報告)
愛衣(プロフ) - 長くなって申し訳ございません!!これからもずっと応援しています!大好きです!!!!更新頑張ってください!! (2021年6月18日 22時) (レス) id: 67408eab69 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まみむー | 作成日時:2021年6月5日 19時