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今日は鬱々とした曇り空だ。
結局、昨日は一睡もできなかった。悲しくて寂しくてたまらないし、これから食堂に行ってお祝いパーティーをしてもらうのにこんな顔じゃ話にならない。
火薬委員会のみんなにも、別れを告げなきゃならないのに。必要なことは全部伝えて、私がいなくても大丈夫なようにしなければならないのに。
こんなことばかり考えていた私は、勿論足元の目印には気がつかない。地面がふにゃりと歪んだと思ったら、ガサガサと勢いよく音を立てて落とし穴に落ちてしまった。
『最近、よく落ちるなぁ……』
少なくとも去年までは落ちていなかったのに、最近は本当に注意散漫だ。こう言う時は大抵近くの人が助けてくれたけど、今はこんな酷い顔、誰にも見られたくない。
仕方なく深い穴の中で体育座りをした。思ったよりも穴は広い。
ずっとここにいたらパーティーに遅れちゃうな。けれどみんなにお別れを告げるなんて、そんなこと、できない。
いつかこうなる日が来るって、理解していたはずなのにな。
「誰かが落ちたと思ったら、Aじゃないか」
『喜八郎……』
自分の穴に誰かが落ちたって察するんだね。天才的トラパーはやはり一味違う。よっ、と穴に降りてきた喜八郎は、私の前でしゃがむ。
「ほら、みんな食堂で待ってるよ」
差し出された手を、私は見ることも出来なかった。
『お別れなんか、したくない…………』
俯いたまま、私はつぶやいた。ホロホロと涙が出てくる。
『私、忍たまのみんなと出会えて、一緒にいることができて、本当に楽しかった! 幸せだった! ずっとあのままでいたかったよ……』
一度堰を切ったように溢れた涙は止まらない。喜八郎にこの気持ちをぶつけたって意味が無いのに。
「A」
『ダメだなぁ、最後は笑顔でいなきゃって思ってたのに……こんな顔してたら辛気臭くなっちゃうのに』
涙は拭っても拭っても出てくる。どうしよう、止まらないや。
喜八郎が何か言ったかと思うと、肩に手を置かれた。そのまま顎に触れて私の顔を上げさせる。潤んだ視界で、喜八郎の顔が近づいてくるのが分かった。
額に軽い感触。口づけされたのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。
『え?』
衝撃で涙が引っ込んだ。目をパチクリとさせて喜八郎を見上げる。彼はあの、私にだけ見せるような優しい表情で笑った。
「ほうら、泣き止んだ。行こう、みんなが待ってるよ」
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スイちゃんですよ〜☆ - 長文失礼しました!(*´ω`*) (2023年1月7日 4時) (レス) id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
スイちゃんですよ〜☆ - 全部読みました!!!!(´Д`)うん、なんだろ、自分が忍たま乱太郎の夢小説見たなかで一番好きな奴でした(^ω^)ニッハッハ完結おめでとございます!!!!(´・ω・`)すべてにおいて、最高でしたね♪(*´∇`*)自分は4、5、6年生、利吉さんが大好きなんで最高でした(*´ω`*) (2023年1月7日 4時) (レス) @page13 id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
メロンパン(プロフ) - 今更感がありますが、完結おめでとうございます!!面白くって、一気に読んでしまいました!夢主ちゃんの性格も好みで、なにより四年生推しなので設定最高でした(人*´∀`) 途中途中、尊すぎて語彙力なくなってました笑 (2022年11月3日 22時) (レス) @page14 id: c77e52a74c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 空き時間等に読んでいたので読み終えるのに時間がかかりましたが、最後らへんは一気見しちゃいました。夢主ちゃんは可愛いし、忍たまとの絡みも最高過ぎです。お話も凄く良かったです。現代に戻ってたらどうなったかな〜と考えたりも…。素敵な作品を有難うございます! (2022年10月16日 20時) (レス) @page14 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
愛衣(プロフ) - まみむー様お久しぶりです!そして完結おめでとうございます!!いい終わり方で凄く読んでて面白かったです!次の作品も、もうお気に入り登録してしまいました🥰まだコロナが完全に終息していなくて不安ですがお互い気をつけて過ごしましょうね! (2022年8月25日 20時) (レス) id: 3b7839b983 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まみむー | 作成日時:2022年6月18日 23時