前座─プロローグ─(ジオウ) ページ5
閑静な住宅街に似合わぬ奇抜な格好をした二人の若い男女の 姿には、彼らが下宿するクジゴジ堂の近所に住まう主婦達もすっかり見慣れたようで、彼女らはいつも通り、明るい声で二人に挨拶の言葉をかける。
「おはようツクヨミちゃん、今日も美人ねぇ」
「おはようございます」
「ゲイツくん、顔色が悪いわよ。ちゃんと朝ご飯食べた?」
「あ、はい……。大丈夫です」
いつもはぶっきらぼうなゲイツも、主婦連中にかかれば普通の学生みたいなものだ。
「もしかして、眠れなかったんじゃない?ほら、昨夜の……」
「あぁ、ほんと困ったものよねぇ」
「昨夜の?」
意味深な主婦達の言葉に、ツクヨミは首を傾げた。日頃から仮面ライダージオウであるソウゴと共に人助け(彼女にそのつもりはないが、ソウゴと行動していると結果的にそうなってしまう)しているからか"困った"という言葉には敏感になっているらしい。聞かずにはいられないようだ。主婦は「あらやだ」と、不味いことを言ってしまったとでも言うように口元を隠すと、他の主婦仲間と目配せして、二人の耳に顔を近づけた。
「クジゴジ堂さんの後ろのアパート。あそこに最近引っ越してきた若い人がちょっと、ね……」
「ゲイツ、何か気づいた?」
「あぁ……。昨夜眠れなかったのも多分そいつのせいだ」
「わたしは全然気づかなかったけど……」
「お前の部屋は俺の部屋より壁が厚いからな……!」
ギリギリと歯を噛み締めながらそう言うゲイツに、肩を竦めて溜め息を吐く。
「わたしに言ったって仕方ないでしょう」
「可哀想にゲイツくんったら年頃なのに、あんな声を夜な夜な聞かされちゃあ。ねぇ?」
主婦は、他の人に同意を求めるように語尾を伸ばしながら、ゲイツの肩を叩く。
「アパートの大家さんに注意してもらうよう言っとくからね!」
「いえ、別に……。いや、ありがとうございます……」
お礼を言い慣れていないゲイツの無骨な礼は、主婦達の目に初々しく映ったらしい。「可愛いんだから!」と背中を威勢よくバシリと叩かれ、ゲイツはその痛みに叫びそうになるのを必死で我慢していた。
「実家離れて下宿までして頑張ってる、偉いあんた達の爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいよ!あそこの住民にね!」
主婦による二発目の平手がツクヨミとゲイツの背中を襲おうとしたその時。井戸端会議の波を掻き分け、一人の女が突然ツクヨミとゲイツの肩に手を回した。
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年6月15日 15時