〇〇しないと出られない部屋（石動惣一） ページ27
黒く塗り立てられた壁。ベッドしかない殺風景な部屋。そのベッドで、石動惣一と西城季実子が目を覚ましたのは、今より十分ほど前のことだった。部屋にある唯一の扉は自動開閉式なのか、ドアノブも鍵の差し込み口も見当たらず。扉の上に付いている点灯していない二つのランプと、大きなデジタル式の時計らしきものだけがこの部屋の中で強く主張していた。当初、知らないところで目を覚まし、更に二人で一つのベッドを共有していたことに気づいた二人は驚いてかなり慌てていたようだったが。ベッド脇に落ちていた手紙を見て状況を把握した二人は。この部屋で唯一置かれているベッドに腰掛けると、苦笑した。
「お互いが相手を赤面させないと出られない部屋……。ねぇ……」
そう呟く惣一の表情に季実子も同調する。起きた当初、同じベッドで添い寝状態になっていたと気付いたときは二人とも思い切り赤面していたが手紙を見るに判定が始まるのは扉上の時計で零時ぴったりからなのだそうだ。そもそもこの時計は本当の時刻と合っているのだろうか。しかし、この時刻が本物だろうと偽物だろうと、それは今の彼らにとっては重要なことではない。今の時刻は二十三時五十八分。時間制限は三十分。後二分もしない内に判定が始まる。こんな怪しい所、早く出なくては。二人は急いていた。これがテーマパークのアトラクションかなにかならば、もっと余裕を持って考えられるのだろうが。
そうこうしている内に時計は全て零に切り替わる。ピピッという小さな音が、このへんてこなゲームの始まりを告げた。
「さて……。じゃあまずは俺が季実子ちゃんを照れさせるから」
「え、何か確信的な方法でもあるんですか？」
「うん。だって季実子ちゃん結構チョロいじゃん」
「そっ、それは……！惣一さんだから、ですよ……」
「ん、何か言った？」
「いーえなんでも！」
季実子はフイと惣一から顔を逸らす。聞こえない位小声で言った自身も悪いが、彼女は大事なところでいつも難聴男子になってしまう惣一に対しても少し拗ねていた。それを知ってか知らずか、惣一はフと口角を上げ、拗ねる季実子の顎に手を添えて自身の方を向かせる。そして鼻先が付きそうになるほど顔を近づけ。突然のことに頭の付いていかない季実子は、抵抗できず固く目を閉じた。その時だ。ポーンと電子的な音が部屋に鳴り響いたかと思うと、二人は反射的にお互いから距離を取った。
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2019年6月15日 15時
